「・・・遅い」
「すみません、電車内なので、
電源を切ってしまっていて・・・
気が付きませんでした」
電話越しに伝わる不機嫌。
先輩からのコールに、出られなかったのだ。
「まあ、それなら仕方ないな。 但し、だ。
俺からの電話には、原則3コール以内で出ろ」
「無茶言わないでくださいよ!」
「心がけの問題だ」
このひとは、本気なのだろうか。
「分かったな・・・日野?」
美声はまるで麻薬。
理不尽を受容させて、
私の理性を麻痺させる。
「分かりませんよ、もう・・・」
滅多にかけてこない癖に。
電話を嫌いだ、と言って。
「俺からの電話を、待っているんだよ?・・・いつでも」
「忠実な犬みたいですね」
あるいは、パブロフの犬。
それは最早、コントロール不能の反応。
貴方が私を支配する。
「お前が犬なら、苦労はしないよ」
「はあ」
「ずっと家に居させるからな。
飼いならして、飼いならして、
俺の他には誰にも会わせない。
携帯電話なんか、必要なくなる」
「そもそも犬は電話を使えませんよ」
「・・・そういう問題じゃないんだよ、日野」
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