少しだけ思っている。
君がヴァイオリニストとして大成すれば、
姉の死を悼む気持ちに折り合いがつくかもしれないと。
それは、墓穴を埋めるための埋め草と同じ。
妖精たちは望むと望まざるとに関わらず
気まぐれに祝福を与える。
それは祝福であり呪いだ。
選ばれし者たちは、絡めとられ囚われて
己の全てを捧げつくして死ぬ。
生贄の羊さながらに。
姉は死に、君は生きている。
妖精は姉の死を見届けて
やがては訪れるであろう私や君の死をも見届けて
祝福を与え続ける。
遠い昔の約束をいつまでも守り続けているのだ。
君の音に耳をすませる。
鳴り続けて止まぬヴァイオリンの音色。
両手に抱えきれない百合の花束。
君が私の姿を認めて微笑む瞬間、
酷く切なくなる。
恋のように激しくはなく、
愛のように深くもない。
ただ、私は君を守りたいと願っている。
その先にあるものが何か分からなくても。
出来る限り長く生きていて欲しい。
なるべくなら幸せになって欲しい。
私が君に甘えているのだと本当は知っている。
助手席で疲れ果て眠る君を起こさないように、丁寧に運転する。
いつか、成熟した君と語り合える日を待っている。
end.
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