お兄ちゃんと一緒に、夏休みに旅行に行った。
二人きりで、とても楽しくて。
だから、友達に言われるまで、
それが《普通》じゃないだなんて、
夢にも思わなかったんだ。
お兄ちゃんの作るお菓子はいつも美味しかった。
幸せな味がした。
けれど、それよりも。
私が、残さずに食べると、お兄ちゃんは
嬉しそうに笑う。 その笑顔を見たかった。
『美味しかったか?』
美味しいよ、と言う。
何度も、繰り返し。
味見をしているから、
分かっていることなのに、
どうして何度も訊くの。
体重の増加。
過食症を疑われたことさえある。
私は健康だ。
愛情を注がれて、幸せに育っている。
お兄ちゃん、私は。
あんなにも、あなたに依存していながら、
それにさえ気が付かないままでいた。
もう、手遅れなのだ。
私はあなたなしに生きてはいられない。
他の誰といるよりほっとする。
ずっと、一緒にいたいのに。
私とあなたが共に在ることの、
何が罪だと言うのだろう。
誰といても、何かが違うと心のどこかで叫ぶ声。
想いを寄せられたとしても。
他人事のように無感動に拒絶する私を責める、その声。
全ての声が反響する。
私は耳を塞ぎ目を瞑る。
優しい記憶は繰り返し波のように押し寄せて、
ほとんど窒息しそうになる。
あなたが私の神様。
ソファに横たわり眠るあなたの横顔にくちびるをつけて。
私の涙が、貴方の頬につたいおりる。
泣いているのは、あなただ。
涙を見せないあなたの代わりに、
私はいつでも涙を流し祈るだろう。
end.
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