故郷

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『お前は、この国をどう思う?』

アシュヴィンは私に問う。

『古い国だ。 嘘や猜疑に満ちた、
既得権に固執して止まない連中が、
お前の足元を掬おうとしているぞ』

私の国。 
神の恩寵を失った祖国。
恵み深き豊葦原。

『何故、守ろうとするんだ?』

誇り高き常世の皇子は、祖国を愛している。
分からない、と答えた。
本当に分からない。
何かが出来ると自惚れるには、
人死にを見すぎてしまった。


『王族の生き残りとしての使命感か?』

違う。

『民に慕われているからか?
姉姫の遺志を継ぎたいから?』

それも、違うと思う。
しっくり来ない。
もっと、違う、何か。

『…お前でなくてはならない理由などない。
連中が必要としているのは、
黄金の髪に蒼い瞳、高貴な血筋という奴だ。
必要とされているのは、
《二の姫》であって、お前自身ではないんだぞ?』

アシュヴィンは、追求を緩めてはくれない。
畳み掛けるように、問いかける。

「…だって、私を必要だと言ってくれる」


ずっと欲しかったものがある。
私を必要としてくれる人。
私は役に立ちたかった。
誰かを助けてみたいと思っていた。
風早と那岐だけが、私の家族で、居場所だったけれど、
二人はとても大切にしてくれるけれど、
それでも何かが足りないと感じていた。

「私を必要としてくれるなら、
私は彼らのために在りたい」

皇子様は少し首を傾げ、憐れむように目を細める。

『お前は、常に人の輪の中にいて笑っているが、
時折恐ろしく孤独に見える』




― 我が子とも思えぬ ―




『それだけで、お前には王たる資格がある。
俺が保証してやるよ、龍の姫君』


この国で、誰かがずっと、長い間、
私を待っていたような気がする。

私の名を呼ぶ声が、響いているような気がするの。
アシュヴィンに告げたら、 笑うだろうか。



ずっと、ずっと、昔から。










end.

















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