目隠しと手錠

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「・・・何も、目隠しまですることはないと思うぞ」

悠里は、アイマスクで俺の目を覆ってしまった。
一体何がしたいのか全然分からない。
むしろ楽しみなくらいだが・・・。

「君に見られていると思うと、
落ち着かないでしょう・・・」

「落ち着かなくさせたいんじゃないのか?」

思わず笑いがこぼれる。
ボタンに指がかかり、
地肌がさらされる気配がした。
引くに引けなくなっているのだろう。
勿論、全てを脱がすことは出来ない。

悠里は、あまり積極的な方ではなく、
いつも俺が誘っていたので、
悠里には申し訳ないが、
俺は大変わくわくしていた。

「目隠しに手錠か・・・。
そういう趣味があるなら、
早めに相談してくれたら良かったのに」

「人聞きの悪いことを・・・」

「だって、悠里はどうして欲しい、
とか言わないよな」

・・・相当虐めないと、声も出さない。
俺としては、声を聞きたいので、
不本意ながら結果的には虐めてしまう。

「・・・言っても、聞かないでしょう・・・君は」

「そうだな・・・止めてとか嫌だとかは
信じていないし、聞かないぜ。
先生の言うことばかり聞いていたら、
どこにも進めないだろう?」

単純に、恥ずかしがっているだけだとしても。
強引に、関係を推し進めている自覚があるから。
俺の方ばかり、好きなようで・・・
不安な気持ちも、本当なのだ。

「・・・で? 何をしてくれるんだ?」

頬に、柔らかい感触。
キスをされたのだ、と分かるまで一瞬。
甘い匂いがする。

「・・・もう、黙っていなさい」

視界が遮られていると、
触覚が鋭敏になる。
さらされた胸に、悠里の髪が落ちて、
くすぐったい。
唇で、愛おしむように、
繰り返されるキスは、
とても淡くて。
細い指が、壊れ物に触れるように愛撫する。
・・・物凄く、焦れったかった。

「悠里、手錠を外さないか・・・?」

そっと、提案してみる。
許されるなら押し倒して、
ポジションを交替したい。
両腕が使えないのは、やはりもどかしかった。
それと、アイマスクで何も見えないことが、
悔しくてたまらない。

「・・・外しません・・・!」

「昔から変わらないな。
すぐにムキになるところ」

そういうところが、好きだった。
他人に対して、一生懸命になりすぎるところが。
いつからかずっと欲しかった。

「・・・もう! どうして君は冷静でいられるの?
やっぱり、私に色気がないのかしら」

「冷静なんかじゃない・・・」

実際、かなり際どい。

「ただ、悠里があまりに変わらないから・・・。
ああ、好きだな、と思っていたんだ」

「・・・そういうの、ずるいと思うのよ」

ゆっくりと、身体を重ねられて。
悠里はしばらく、ただ、じっとしていた。

「・・・悠里。 機嫌を直してくれ。
手錠と目隠し、外してくれ・・・。
そろそろ、抑えが効かない」

「嫌よ。 思い知らせてやるの・・・。
いつも、私の方ばかり、
君にドキドキさせられているんだわ。
これくらいのハンデはあっても良いでしょう?」

唇に唇を押し当てられる。
おずおずと、差し入れられる舌は、
下唇を嘗めて、直ぐに離れてしまう。

「私だって、君が本当に
・・・本当に、好きだから。
不安にならない訳が無いって・・・
ちゃんと、分かっていて・・・」

悠里は、それを言うために、
わざわざ俺に手錠と目隠しをしたのだろうか。
そうまでしないと、素直に弱音を吐けなくて。
・・・面倒くさいのに、
愛おしくてたまらない。
ああ、今すぐにつながりたい。

「・・・俺が、悪かった」

「ちゃんと、反省した?」

「・・・反省したから・・・外してくれ」

まず、アイマスクが外された。
瞼に口付けられる。

「手錠も」

「外しても、何もしないこと」

「・・・それは、酷くないか?」

「反省を態度で示しなさい」

「・・・分かったよ」

ポケットから鍵を取り出して、
悠里は手錠を外した。

「痛くない? 背中と手首が、
赤くなってる・・・」

俺は、悠里を抱きしめた。

「何もしない。
抱きしめているだけだから・・・、
悪かったよ、二度としないから。
手錠なんかなくても、
悠里は俺のものだって、
ちゃんと分かった」

「それなら、良いのよ」

抱き返される、その幸福に。
俺は永遠に酔っていられると思った。







end.































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