俺は、女を知らないとは言わない。
昔から誘惑されたことは多々あった。
ただ、単純に興味を持てなかった。
俺という人間に興味を持ってくれた
女性はいなかったと思う・・・。
だから、深くは付き合えなかった。
親友に裏切られ、
大好きなサッカーから引き離され、
暴力の他に慰めを見つけられないでいたあの頃。
やっとのことで、
その日その日を過ごしていた。
―― B6や、先生に出会うまで。
卒業式。
桜咲き誇る春の日に結ばれて、
俺の気持ちを、
受け入れてもらえたときは、
ひたすら嬉しかった。
だから、先生が傷ついていたかもしれないだなんて、
俺は考えてもみなかった。
信じられないけれど、
先生は本当に上手に隠していたから。
キスよりも先に進めようとしたときに、
微かに強ばる身体に気がついた。
先生は、必死に隠していたが。
心当たりは、ひとつしかなかった。
俺は、先生に無理強いしようとしたことがある。
本気でだ。 そのときは、確かに本気だった。
今なら、そのときの自分を殺してやりたいと思う。
あの頃、俺は自分を守るために必死で。
不用意に踏み込んでくる先生に戸惑った。
信じて、裏切られるかもしれない。
信じられないのに、信じたい。
矛盾を抱え切れなくて、先生を脅した。
――犯されたくなきゃ、帰れよ・・・!
もう、俺に近寄るな!!
怒鳴って、押し倒した。
未遂に終わったのは、先生が冷静だったから。
俺を見放さないでいてくれたから・・・。
だから、慣れるまで待とうと決めた。
決めた・・・筈だったのに。
「くっそ〜、俺って成長無いのか!?」
「・・・う〜〜ん。
ゴロちゃんも男の子だから、
はじめの気持ちも分かるよ?」
哀しいことに、俺も普通の男で、
しかも年頃の男だった。
好きなひとと、四六時中一緒にいて、
そういうことをしたくない訳が無かった。
急遽B6に相談に乗ってもらい、
頭を冷やすことにした。
久しぶりに、電話をかけた相手はゴロウだった。
耳元に響く、性別不詳のボーイソプラノが、
酷く懐かしい。
「にしても何でボクなの?
翼とか、瞬とかのがそういう話は
分かりそうな気がする」
「・・・あいつらは、先生が好きだったからな。
もしも俺が先生を怖がらせるようなことを
したと知ったら、間違いなく殴られる・・・」
殴られるくらいなら、良い。
むしろ殴って欲しい。
ただ、連中が諦めきれないでいたりしたら、
と思うと怖いのだ。
清春辺りに言ったら、
俺は再起不能の目にあわされそうだ。
なんだかんだで、
俺たちは全員先生を慕っていた。
それが恋であれ、尊敬であれ、
あるいは、憧れであれ。
ライバルは、本当に多かった・・・。
「・・・ショージキ、ボクもフクザツだけどさ、
二人には上手くやって欲しいし・・・、
頑張ってよ、はじめ」
「・・・ああ。
そうする・・・」
「・・・殴って欲しいなら、
ゴロちゃんが殴ってあげるけど?」
「今度そうしてくれ・・・」
携帯の、電源を切ると、
メールの受信があった。
悠里からだ。
短い文面で、今夜部屋に行くとある。
俺は。
あのひとを、絶対に守ると決めているのに。
時々、怖くなるんだ。
他ならぬ俺が、あのひとを追い詰めているような気がして。
to be continued
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