「・・・悠里、基本的に
悪巧みに向いていないよな・・・」
確かに、金属が若干食い込む手首は痛いし、
無理な姿勢を強いられているのは苦しいが、
悠里の困った様子はそれを補って余りある感じだった。
本当に可愛いひとだと思う。
「う、うるさいな・・・、
見てなさい、これからです・・・!」
「無理しないで外せ。
ちゃんと謝るから・・・
俺が悪かった、ごめんな」
悪ふざけをし過ぎたと、
反省をしなかった訳ではないのだ。
ただ、悠里が同棲を承諾してくれないのが、
もどかしかったのと・・・少し、
甘えてみたかっただけ。
悠里は割りとムキになるところがあるので、
俺は宥めにかかった。
「嫌です、外さないわ」
「でも、悠里は俺に何も出来ないだろ」
「で、出来ます」
そこで、何を考えたのか、
悠里は俺の上に馬乗りになった。
「・・・おい・・・?」
「黙りなさい。
私は、怒っているのよ。
大人しくしなさい・・・っ!」
言うなり、いきなりディープ・キスをお見舞いされる。
一体、何を考えたのかよく分からないが、
悠里は滅多に自分からはキスをしないのだ。
俺は本気で動揺したが、
せっかくのチャンスなので、
ありがたく押し頂く。
「・・・んっ・・・はぁ・・・あ、
・・・瞬君・・・」
舌を搦めて応えると、湿った音がした。
が、突然キスを中断される。
口の端から、こぼれる唾液を乱暴に手の甲で拭い、
悠里は俺をにらみつけた。
「・・・あの・・・悠里?」
おそるおそる尋ねてみる。
「・・・私はこれから、
君を全力で誘惑します。
でも・・・君から私に手出しはさせません。
それでどう、瞬君」
目が据わっている。
受験勉強の大詰めのときと同じ目をしていた。
この目をしたときの先生は、
純度100%で本気だと俺は知っている。
連日恐ろしいハイペースで
知識を詰め込まれた悪夢の補習を思い出す。
・・・そ、そんなに悔しかったのか・・・。
「どうって・・・とりあえず、落ち着け」
「私は落ち着いています。 冷静沈着よ!」
「嘘だろ、 明らかに冷静じゃない」
「ふっふっふ・・・、じっとしていなさい。。
私だって伊達に一年間
君たちの相手をしていた訳ではないの。
たまには、君が私を持て余して
困ったって良い筈です!」
どこかで聞いたような会話を交わしながら、
夜更けまでには、まだまだ時間がかかるのだった。
to be continued
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