はぴば記念 F

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清春君は、いつも故意に私のペースを乱すから、
行為の最中はひたすら翻弄されるばかりだった。
けれど、今日はいつもと違って、
まどろっこしいくらいだった。
私のベッドなのに、彼は馴染んでしまっている。
窓の外の明るさを嫌って、カーテンを閉めた。
悟郎君が、器用な手つきで整えてくれた髪形。
清春君は、そっとヘアピンを抜いて私の髪にキスをした。

「フツーしねぇよな・・・バカな女」

ことばとは裏腹に、その声も。その仕草も、
とても優しかったから――。
私は、感情の波に押し流されそうになる。
今日の主役は、清春君なのに。
誕生日を祝う。 
それだけのことに一喜一憂出来る私は、とても幸せだ。
特別なひとと、特別な日を過ごせること。

「そういうとこ、スゲー気に入ってる」

「・・・ありがとう」

複雑な気持ちだ。
清春君は、さっさと脱いでしまっている。

「君と、学生時代に会ってみたかった」

そうしたら、私たちは、どんな風になっていたのだろう。

「今さえありゃジュウブンだろ?」

深い口付け。
指を、押し込まれた。
咽喉の奥を、犯されて、唾液が溢れる。
苦しくて、咳き込む。
息をつく暇もなく。
足の間。 布越しに濡れた指の感触。
恥ずかしくて、死にそうになった。

「いつもより、反応が早い・・・
セーフクだからか?」

大分着崩れしてはいるが、
完全に脱がされはしなかった。

「・・・そういうことは、
わざわざ言わなくても良いの・・・!」

服のせいで、ここまで刺激されるだなんて、
思わなかった。 私は、変わっているのだろうか・・・。

「クク・・・今度、俺もセーフク着てやるよ」

「君、一度もまともに着たことなかったでしょうに」

「今の悠里ほどじゃね〜と思うけどなァ」

「・・・誰がしたのよ、全く・・・」

そろそろと。
指は、私の内部に侵食する。
声が擦れる。
顔を。 見られたくないのに。
猫のような瞳が、私を覗き込む。
いつもきらきらと光を宿していたその瞳。
けれど今、それはとても穏やかで。
目を合わせた瞬間に、身体の力が抜けた。

「・・・っ、あ・・・」

急き立てられるような、
快楽の淵に立つ瞬間が、
いつも苦手だ。
どうしても、慣れることが出来ない私を。
清春君は、強引に引きずりまわす。
・・・私が望むとおりに。

「・・・俺だ。 悠里」

「え・・・、な、なに・・・」

「俺がしたんだ。 これからも、俺だけがする。
・・・お前は、俺の宝物だぜ?
神様からの、ギフトってヤツかもな」



ことばが、私をかき乱す。

君も。
私にとってはそう。
神様からの、この世にひとつの。




「ワケ分かんなくなってて良いから、
それだけ覚えてろ。
一生、俺のモノだって」



私は、やっぱり今日は、
私ばかり嬉しい思いを
している気がして。
次から次へと溢れ出してくる幸せな気持ちを、
分かち合いたいとそればかり考えた。









制服は、クリーニングで済みそうだった。
私は、身体を動かすと痛む有様で、
見かねた清春君がありあわせのもので料理をしてくれた。

「今日は、君の誕生日なのに・・・
私ばかり良い思いをしている気がする」

「ふうん? そうでもないだろ」

「・・・まあ、君がそう言うのなら」

「たっぷり、タンノオしたからな。
俺も良い思いしたと思うぜ?
久しぶりにお前らしいお前も見られたし」

「・・・君の中の私のイメージはどうなっているの」

「聞きたいか?」

「いいえ。 それより、あの包み紙の中は何だったの?」

翼君たちから預かったものの中身が、
気になっていたのだ。

「君、あまり本は読まないでしょう?」

先ほど、早速包み紙を破り捨てて、
真剣に中を検分していた。
どうやら、一般に流通してはいないようだが、
立派なつくりの本だった。

「あ〜。 ま、気にすんな」

「・・・? 言いたくないの?」

何だか、気になる反応だった。

「5月9日が終わるまでまだあるなァ・・・。
身体、洗ってやるよ」

「自分で洗えるから・・・」

気を遣うポイントがズレている。

「嘘吐け、さっきふらふらしてたろ。
ほら、風呂行くぞ」




そのときは、誤魔化されてしまったが。
私は後にその本の中身を知り、
翼君に電話で怒鳴りつけてしまった。
その本は、アルバムで、
私のコスプレ写真が大量に貼られていたのだ。

「永久保存版じゃないのよ・・・!
どうするのよ、あんなもの」

「清春が喜んでいただろう?
それに、タンニンは賭けに負けたんだしな」

飄々として動じない。
全く手に負えない子たちだと、改めて思い知る。

「・・・賭け?」

「清春、笑わなかっただろう?」

「あ」

そういえば、そんな話をした。

「・・・賭けは、俺たちが勝ったんだから、
それくらいはオオメに見ろよ」

「君たちは・・・、もう、良いわ。
・・・翼君。 ありがとう」




神様からのギフト。
それは、唯一無二の出会いだと思う。
大好きな人たちと、過ごした時間。
これから、過ごす時間。

「・・・どういたしまして、先生」

電話を切って。
おそるおそるアルバムを開き、見ていった。

「いつの間に撮られたのかしら。
現像する時間も無かったわよね・・・」

こうして見ると、様々な服を着ている。
居心地が悪そうな、切羽詰っている自分がそこにいた。

最後のページに私が寝入った後の、
皆の写真も数枚あった。
お酒を飲みながら大騒ぎしている皆の姿は、
バカサイユを思い出させた。

4人の筆跡で書かれた『Happy Birth Day』。

「良いわね、・・・君たちは」

思わず笑ってしまう。
羨ましい友情だ。
そこに、私もメッセージを書き加えて置いた。
短く、シンプルな。

「あの子たちのスペルが、
間違ってなくて良かったわ」


―― Happy Birth Day! With Love ――

お誕生日おめでとう、清春君。






end.


























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