体育祭は、割に人気のあるイベントだった。
「きゃ〜〜! 火原先輩、頑張って」
「土浦、走れ走れ走れ!」
「加地君、速いね!」
喧騒の只中で、私は観客席にいた。
「君も、応援なんだね・・・日野さん」
「柚木先輩。 リレーは花形種目ですから、
私では・・・役不足ですね」
「・・・そう?
君が出場していたら、
僕は君を応援するのに・・・」
相変わらず、見事に猫を被っている。
きっと、ペルシャ猫だと思う。
高級で、済ましていて・・・
プライドが高くて、気まぐれな猫。
柚木先輩が本当に猫を被っている姿を想像して、
少し笑ってしまった。
「わあ、心強い」
一際大きな歓声が上がる。
加地君がテープを切り、
私に向かって大きく手を振った。
観客席にいる生徒が、つられて私を見る。
「私のクラスが、一位ですね!」
手を振り返した。
「・・・日野」
「わ、ひゃ・・・っ」
いきなり、耳元で囁かれた。
「俺が隣にいるときは、俺だけ見てろ」
無茶にも、限度がある。
「・・・でないと、俺の機嫌を損ねるよ?」
このひとの、タチが悪いところは、
全て承知でやっているところだ。
「体育祭の観客席で応援して
何がいけないんでしょうか・・・」
「ちょっと、相手が気にくわないんでな」
隣にいようといるまいと、
私は貴方しか見ていないのだけれど、
それを知られたくないと思うのは、
無駄な足掻きですか。
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