選べなかった選択肢

TOP






永遠に続くかのような廊下を、走った。
貴方は、時計に急かされているようで、
その実時計など問題にしていない。
空の小瓶を満たした液体。
―― 帰り道を、思い出した。


豪奢な部屋の、大きなベッドの中で。
貴方は私を抱きしめて眠った。
そのぬくもりは私を深く眠らせる。
空っぽな貴方の心を、満たしたのは私なのに。
もしかすると、本当に。
私は貴方のものかもしれないのに。
貴方を、置いていく。


愛情は、呪いに似ている。
その甘い声で。
冷たい瞳で。
比類の無い愛情で。
――貴方は私を絡め取った。
















夢から覚めた私の目が初めて捉えたのは空の青。
まだ、貴方の時間だ。
トランプのカードに、絵本。
お菓子にお茶。
足りないのは、あのひとの姿だけ。
私は片づけはじめる。
夢から完全に覚める儀式だ。
部屋に戻る。
子どもじみたデザインのドレスを脱ぎ捨てる。
ポケットの中の小瓶に気が付いて、驚く。
中身は、また空のまま。

「悪戯なの・・・? ペーター」

意地悪な、子どものような真似をする。
机の引き出しに、しまおうとして。
私はそれを握り締めてその場に座り込む。
顔に押し付けて、ひやりとした感触を確かめる。
何の変哲も無い、硝子の瓶だった。
激しい嗚咽は、まるでひとごとのように。
泣きつくした後で、
硝子を濡らした私の涙を、
貴方は笑うだろうかと考えた。










TOP


Copyright(c) 2007 all rights reserved.