二人で歩く駅前通り。
・・・の筈なのに。
二人きりの、気がしない。
「柚木先輩・・・至るところにファンがいるのは、いったい」
「俺が知りたい・・・」
「噂になっているのかもしれませんよ。
先輩がこの辺りに出没する、って」
「口裂け女か、俺は」
「・・・先輩、意外に俗世の知識もあるんですね」
「火原が話していたんだ。
最近そういった映画を見たらしいな」
小声で会話をしながら、
彼女たちが離れるのを待つ。
気付かれないように注意を払いながら、
少し残念に思った。
(たまには、落ち着いて《ふたりきり》になってみたいな)
贅沢な望みかも・・・しれないけれど。
「映画、良いですね。
今度見に行きましょうか?」
暗い気分を振り払おうと、
つとめて明るい声を出すと、
頬をつねられた。
「いひゃい・・・って、なにをするんですか」
「面白くないなら、そう言えよ。
嫉妬したのか?」
「いや、そこまでは・・・」
嫉妬をする権利は、私に無い。
文句を言おうにも、柚木先輩に非は無いのだし、
しかも今に始まったことではないのだ。
「それくらいで怒らないぜ、俺は。
むしろ、溜め込まれる方が苛々するね」
「じゃ、何でも言って良いんですか」
「ああ、・・・言ってみろよ」
ふ、っと息を吸い込む。
「・・・外面の良い悪党」
「おい・・・お前」
「何でも言って良いって言ったのは、先輩です」
「言ってくれるよね、・・・日野さん」
「いたたたた、痛いですって。
つねらないでくださいよ」
―― 私ひとりの、ものになって。
言ったら、きっと呆れられる。
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