鍵をかけて閉じ込めて

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鍵をかけて、閉じ込めてしまいたい・・・。


「・・・瑞希君?」

「先生・・・腕、見せて」

文化祭のアクシデントで。
先生の腕には、消えない火傷の痕が残った。

「腕? ああ、火傷の痕。
もう大丈夫なのに・・・優しいわね」

彼女は言われるままにスーツの上着を脱ぎ、
ブラウスの袖を折る。
二の腕から肘にかけて残る痕。

「お医者さんに言ったら、
処置を誉められたわ。
ありがとう、瑞希君」

僕は、純粋に心配しているというよりも、
彼女に残る傷跡を確かめたかった。

痕に触れないように、腕を取り、
少しも見逃さないように検分する。

「・・・そんなに、心配だった?」

不思議そうに首を傾げる悠里に、
僕は何故か酷く苛立ってしまう。

ゴロウには、悪意は無かったかもしれない。
けれど、彼女は余りにも人間を信じすぎるのだと思う。
世の中には、想像を絶する悪がある。
しかも、時としてそれは善意に根ざしていさえする。

善意故に僕を家族から隔離し、
孤独の淵に叩き込んだ世間。
僕をモノとして扱った連中だって、
概ね善良と言えたのだ。

これから。
彼女を傷つける輩が現れないとは限らないのに。
彼女はそれを笑って許すのだろうか。

「瑞希君のおかげで、たいしたことには
ならなかったのよ。
もう、戻しても良い?」

「・・・ダメ・・・」

「ダメって言われても・・・」

皮膚の表層がところどころ爛れている。
治りかけている。
舌でそれを嘗めた。
ほとんど欲情しそうになった。

「・・・っ! み、瑞希君ちょっと待った!」

「嘗めたら・・・治る?」

「治りません! 万が一治っても嘗めたらダメです!」

動揺して離れる先生は、
すぐさま服を整えてしまう。

「よく・・・嘗めたら治るって言うのに・・・」

実際、唾液に含まれる
リゾチームやラクトフェリンなどには、
殺菌・抗菌作用がある。
・・・と言っても、
治すために嘗めた訳ではなく、
単なるセクハラだったが。

「動物じゃないのよ、もう」

「・・・人間も、動物」

「・・・ああ言えばこう言うんだから」




鍵をかけて。
閉じ込めてしまいたい。
僕の目の届くところで、
先生を守りたいと思うときがある。
いつか、彼女が悲しい目にあったら。
酷い目にあわされるときがきたら。
僕はその相手に何をするか分からないし、
僕の知らないところでそれが起こったら、
僕自身すら許せない気がする。



鍵をかけて。
世界から切り離して。


それはとても物騒な考えだから、
実行には移さない。
ただ、優しいこのひとを踏みにじるものを、
僕は躊躇せず殺せる。
自分にその力があることが嬉しいと思うのは、
間違っているのだろうけれど。













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