愛情脅迫

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「先生は、俺のものだよな?」


瞬君は、あろうことか私を軟禁した。


卒業後、恋人同士として付き合いだした
私たちだが、流石に同棲は出来ない。
何よりも、瞬君のお母さんにきちんとした許可を
得たかった。瞬君は、気にする必要は無いと言った。
どうせ、自分など彼女の人生に何の意味も無いのだと。

・・・淡々と。

私は教師として生徒と関わる中で、
家族がいかに複雑なものかを思い知った。
比較の問題ではないが、
瞬君よりも残酷なケースもままあった。
その度に無力感に襲われたが、
教師の介入はしばしば越権行為として制約され、
満足にケアできないのが現状だった。

しかし、教師でなく恋人なら、
その身内とうまくやれるように、
努力する名目がちゃんとあるのだ。

私は、瞬君の哀しい顔は見たくない。

と思い、許しを得るまで一緒に住まないと告げた。
不満があるだろうとは察していたが・・・。

お互いの家の合鍵は持っている。
瞬君のマンションに行く日。
『遅くなるから待っていてくれ』とのメールがあった。
忙しく、急な予定が入ることも多々あるので、
大人しく部屋で待っているうちに転寝した。
彼は帰宅して眠る私を見て悪戯を思い立ったらしい。
目が覚めると私はソファの上だった。
両腕は体の前で、手錠で拘束されていた。


「・・・瞬君、とりあえず落ち着いて」

「俺は、落ち着いている。冷静沈着だ」

「嘘を吐きなさい、嘘を!」

「・・・本当だ」

「素面なら余計に許しません。
外しなさい! 大体これどこで買ったの?」

「清春が勝手に置いて行った」

「・・・聞くんじゃなかった・・・!」

ガチャガチャと金属の擦れる音がする。

「これ、よくある玩具じゃないわね・・・」

玩具にしては重すぎる。
冷やりとした感触に恐れをなした。

「本物だろうな。
清春はそういうものにはこだわる」

「最悪ね、君たち・・・」

ズキズキと頭痛がした。

「何を考えているの?
瞬君。 悪戯は、清春君の専売特許でしょうに」

「・・・先生の、愛を確かめたくなって」

「・・・は!?」

「俺は、先生と一緒に住みたいのに・・・。
先生は許してくれない。
俺の方ばかり好きみたいな気がして・・・」

だからって、手錠はないだろう。

「説明したでしょうに。
だから、お母さんのお許しを得るまでは、と」

「そんなの、いつになるか分からない!」

「逆切れするんじゃないの!」

「・・・先生が、俺を置き去りにしないなんて
保証はどこにもないんだぞ」

がばっと抱きしめられる。
ソファに体が沈み、
瞬君の体の重みが苦しかった。

「俺は実の母親にさえ捨てられたんだ。
家に帰ったら、悠里にいて欲しい。
そうでなかったら安心できない!
卒業してから、毎日会えないだけで苦しいんだぞ」

毎日メールして電話して
互いの家に行き来して
ほぼ毎日顔を合わせているのに、
まだ寂しいというのか・・・。

「・・・だからって、
いきなり手錠をかけることはないでしょう・・・」

「どこにも行けないだろう?」

「まさかずっとこのままじゃないわよね?」

「・・・どうかな」

「どうかなじゃないでしょ!
今すぐに外しなさい!」

瞬君は、クールに笑ってみせた。

「ふっふっふ・・・良いだろう。
外してやる。 その代わり、
外して欲しかったら今夜は
俺を甘やかせ!」

「はい・・・!?」

「言っただろう。 愛情確認だ」


・・・ぶん殴ってやりたいのに、
手錠は私にそれを封じる。

「・・・悠里、頼む。
忙しくて・・・会えないと、
辛いんだ」

最初からそう言えば良いのにと思いながら、
私は年下の恋人の頬にキスした。

「分かった、分かったわ。
で・・・何をすれば良いのよ」

渋々と承諾する私に、瞬君は耳元で囁く。






「・・・・・・」







「・・・悠里?」

「出来ますかそんなこと!!!!」

「・・・悠里のけち」

「君にだけは言われたくない!」


―― 手錠のせいで、
抱きしめることも出来ない。

置いて行ったりしないと、
心の底から信じてくれる日が、
一刻も早く訪れることを祈りながら。
私は泣く泣く瞬君の願いを叶えてあげるのだった。











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