恋愛の作法 〜翼視点〜 前編

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それはある種のGAMEに似ていると人は言う。
それならば勝ち負けはあるのだろう。
望まずに勝負を強いられながら、
相手よりも優位に立とうと足掻く。
RULEも分からないままで。



モデルは服の引き立て役に過ぎないと思う。
インタビューで、正直に本心を言った。
ケンソンしているんですね、
とインタビュアーが感心した。
応対する取材は永田によって選び抜かれているから。
然程量は多くない筈。
それでも自由にならない時間は増えていく。
少しずつ、少しずつ、何かが溜まっていく。
ケンソンとはどういう意味だったか
考えている間に、他の質問へと移っていった。

「ツバサ君の好みの女性のタイプを
教えてくれませんか?」

必ずと言って良いほど聞かれる質問だ。
聞いてどうするつもりだ。

「そうですね・・・。
素直なひとですか」

当たり障りのない言葉を選びながらも、
勝手に脳裏によぎる image は彼女のものだ。
自然に、笑みが浮かぶ。

「う〜ん、もう少し具体的にお願いします」

「・・・あまり、好みと言える程
恋愛経験がないので・・・」

「ええっ・・・嘘でしょう!?」

「本当ですよ。 オクテなんです」




オクテとオクノテは何故意味が違うのか、
タンニンに聞いたことを思い出した。



『ミギテとミギノテは同じ meaning だろう!?』

『・・・うん。 そうね・・・
間違ってはいないけれども・・・
右の手とは言わないし。
どう説明すれば良いのかしらね』

毎日居残って、あらゆる科目の補習をした。
土日を除く平日。 二人きりの時間を持てない日はなく。
いつでも会えると思っていたのに。

『まず、辞書を引きなさい。
和英や英英辞書を使って、自力で調べる癖を
定着させなきゃ・・・私も、調べてみるから。
明日までの宿題ね』

そして、翌日彼女は本当に調べてきた。
些細な疑問にも、必ず答えてくれた。
さりげなく、まるで負担でも何でもないようなそぶりで。
あの頃の彼女は、今の俺よりも忙しかっただろうに。


「・・・だから、好きになったひとが
そのまま type なのかな」

「好きになったひと・・・と言うと、
今現在お付き合いしている方が?」

「それは、ナイショです」

「いろいろと女性関係の噂が絶えないツバサ君ですが、
奥手というのは意外ですねぇ・・・」

「はは、そうですか」

仕事をすること。
カネを稼ぐこと。
責任を持つこと。

手抜きはしたくない。
父親を見返すためでなく、彼女のために。
補習の時に、使ったノートを読み返すたびに、
あの頃の彼女に頭が下がる。
膨大な量があった。
今、インタビューなどを受けられるのも。
彼女のおかげだと言える。
例え、この世の誰が知らなくても、
彼女は偉大な尊敬すべきプロフェッショナルの一人だ。

取材に応対し、仕事をこなし、
体調を管理し、感情を抑制する。

それが、彼女に出来るせめてのもオンガエシだと思う。




でも・・・時々叫びだしたくなるのも事実だ。




彼女に・・・悠里に会いたいのに。
なかなか会えない。

そして、もうひとつ不安な要因があった。




「永田、何故悠里は俺に会いたいと言わないんだ?」

インタビューが終わって。
人心地ついて、移動の最中。
信頼の置ける相手に訊かずにはいられなかった。

「俺は会いたいのに・・・
会いたくて、たまらないのに。
悠里からは、そうした内容の mail も電話もないんだ」

「成る程」

「海外のモデルとの scandal を
スッパ抜かれたときも!
慌てて電話をしたのに、
悠里はいたってフツーにしていたぞ。
そこにちゃんとアイはあるのか・・・」

俺が逆の立場なら、絶対に許さない。

「・・・冷たい。 ツレナイ。
俺だけが好きみたいだ。
unfair だと思うぞ、まったく・・・。
永田・・・何を笑っている?」

「なんというか・・・甘酸っぱいといいますか。
私にしてみれば悠里様も翼様もまだまだお若いですから。
青春を懐かしく思い出しました」

「永田にもそういう private があるんだな、そういえば」

「当たり前じゃないですか。
翼様はもう少し女性の心を
学ばれた方が良いと思います」

「・・・グタイテキに何をすれば良いんだ」

カンジの書き取りのようには行かない。
何をすれば分かるのだろう。

「それは、宿題ということにいたしましょう」

「タンニンじゃあるまいし・・・」


恋人になれたら、安心できると思っていた。
それなのに。
やっぱり、相手の心が見えないと不安になる。


「オヤジは、母さんに会えないとき
何を考えていたんだろうな・・・。
だから、何を笑っているんだ、永田!」

「私は嬉しいんです。
翼様が少し大人になられたようで」

「・・・よく分からないんだが」




そして、悠里の見合いの知らせが届いたのだ。




to be continued















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