アルビノのは虫類や両生類たち。
彼らは高値で取引される。
希少だから。 美しいから。
人間も、同じだ。
自分自身の価値すら、他者に決められる。
君の苦痛を慰めることばすら知らない。
私には、それが辛かったのだと思う。
「ねえ、トゲー。
あのとき、どうして迷子になったの?」
観葉植物の影で、涼んでいたトゲーを、
そっと持ち上げた。
トゲーは、まるで人間の言葉が分かるような
不思議なところがある。
いつでも、瑞希君の傍を離れないトゲーが、
何故あの日に限って姿を消したのだろうか。
「トゲ〜・・・」
「悠里、そこにいるの?」
「ああ、瑞希君。 おかえり」
「・・・誰と話してたの?」
「ん? トゲーとよ。
トゲーが、人間の言葉を話せたら良いのにね」
そうしたら、私と出会う前の君のことを、
もっとたくさん知ることが出来る。
恋の相談にも、乗ってもらえるかもしれない。
君の不思議な体質の秘密も、明らかになるかもしれない。
「僕は嫌だ」
「どうして?」
「トゲーと悠里が仲良く
なりすぎるのが、嫌」
「トゲーを君から奪ったりしないわよ?」
「・・・鈍い・・・」
「ねえ、あのとき――植物園で、
トゲーを探した夜を、覚えてる?」
瑞希君は頷いた。
「トゲーがね・・・、キューピッドを
買って出てくれたような気がしていたの。
だから、訊いてみたくて。トゲーに」
トゲーは大人しくしている。
瞳を見つめても勿論分からない。
「悠里がそうして欲しいなら、
動物と話が出来る道具を、開発してあげる」
「ソロモンの指輪?・・・冗談よね、流石に」
「・・・どうせ、才能の使い道を
自分で決められないのなら、
悠里に喜んでもらえる方が良い」
「それは、自分で決めなくては駄目。
それに道具なんてなくても、
君たちはコミュニケーションが出来ているんだし」
瑞希君は有言実行だ。
仮に本当にそんなものが完成してしまったら、
社会は大変なパニックに陥るに違いない。
「僕はね、悠里の望みを叶えてあげたいんだ」
昔よりも、随分と口数が多くなった。
「僕にしか出来ないやり方で。
そうしたら、僕と悠里が出会った意味が出来る。
僕が、こんなふうに育ったことも、
何もかも全て水に流せるような気がする」
「・・・私が、瑞希君を好きなのは。
君の知能が高いから、
とかそんな理由ではないのよ?」
「分かってるよ」
それでも、と瑞希君は言う。
「君に、・・・悠里に喜んで欲しいんだ」
言葉があっても。
自分自身よりも、好きな相手だとしても。
いや・・・それ故にこそ、
分かり合えない部分は残る。
私たちはひとりひとり違っていて、
そしてとても独りぽっちだ。
「私の望みは、・・・もっとずっとシンプルなのに」
ずっと、ずっと、君を好きでいられるように。
ささやかな日常を共有出来るように。
「とりあえず、次の日曜日はあの植物園に行こうか」
手をつないで。
陽の当たる場所に行こう。
穏やかな時を重ねていけば、
いつかはやがて、辿り付ける筈だから。
その週末に、久方ぶりに瑞希君は召喚した。
その際トゲーは運命の出会いを果たし、
それは素敵なガールフレンドが出来た。
二匹の写メをB6の皆に送った、その翌年の夏。
私と瑞希君は結婚し、散々冷やかされる羽目になるのだった。
end.
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