私と衣笠先生の結婚は、瞬く間に
校内をかけめぐるニュースとなってしまった。
衣笠先生のたっての願いにより、
私たちは既に婚姻届を出してしまっている。
『僕は臆病なので・・・、
一刻も早く既成事実を作ってしまいたいんですよ。
紙キレ一枚にしても、
ライバルたちへの抑止力にはなりますからね』
・・・とは、衣笠先生の言だ。
老若男女問わず、あらゆるひとを
無節操に惹き付けてしまう先生と、
盛大な式を挙げる勇気は私にもサラサラなかった。
両親にも如何なく発揮されたその魅力ゆえに、
あっさりと届を出して、それは終わった。
お互いの両親を立会人とした、
極めて簡略化した挙式の後で、
B6含む生徒たちや同僚・先輩方に報告した。
私と衣笠先生の関係は、
既に皆に知られていた(隠し切れなかった)のにも関わらず、
やはり結婚となると、おおいに騒がれてしまい、
くすぐったいような面映さを抱えて日々を過ごした。
勿論、黙って式を済ませたことを、
B6メンバーは許してくれなかった。
特に衣笠先生に対して妙なライバル意識がある清春君は、
物凄く気を悪くしていたようだった・・・。
先生方も、水臭いと残念がられていたので、
人前式のような身内だけの式を急遽行うこととした。
参加メンバーは、B6と先生方6名。
翼君が一切を取り仕切ってくれることとなった。
「何だか、みるみるうちにイベントの
規模が大きくなっていきますね」
「それは、先生と衣笠先生が
俺たちに黙って結婚しちゃうからだろ!?
俺、ネタ仕込んだのになぁ〜」
「真田先生・・・何度も謝っているじゃありませんか」
職員室の空気も何だかふわふわしているようだった。
「・・・それについては、私も真田君に同感ですね」
「俺と二階堂先輩とで、きっと歌ったのに。
ねえ、先輩!?」
真田先生と二階堂先生のデュエットを想像した
私は、思わず噴出した。
「それは、ぜひとも聴きたかったですね」
「歌いませんよ、馬鹿馬鹿しい。
ですが・・・お祝いくらいはしたかった、
という気持ちはあります」
「本当に・・・皆さん、ありがとうございます」
「まあ、今週の日曜日のイベントに期待しようか。
南先生は、その日に何をするのか知っているのかな?」
「いいえ、B6のメンバーが
主催してくれているのですが、
内容を教えてくれないんです。
衣笠先生も、教えてもらっていないらしくて」
「そうか・・・ふふ、楽しみに待っていよう。
卒業以来、彼らにも会っていないしね」
「ええ。 私は割りと頻繁に連絡を取っているんですが、
清春君が結婚を知らせて以来、ずっと様子がおかしくて」
「・・・というと?」
「上手く言えないんですが・・・元気がなくて。
大人しい清春君だなんて、
清春君らしくありませんから、
心配ですよね」
「ふむ。 衣笠先生は何て?」
「放って置くように言われました」
「・・・原因は明らかですからね、
私も、放って置くのが最善の対処法だと思います」
それは何故か、問いかけようとしたとき。
衣笠先生と九影先生が、布ガムテでぐるぐる巻きにされた
葛城先生を連れてきて、そちらに気を取られて、
タイミングを失ってしまったのだった。
そして、日曜日。
指定された会場は何と、
真壁グループの持ち物でなく、
聖帝の校庭だった。
「よく、校長が許可したわね」
校庭の真ん中にテーブルが
据えられているのが見えた。
「これだけ教師がいますからね。
翼君もバカサイユを建てなくなった分、
成長したのかもしれません」
「確かに・・・一日限りの特設会場を
建てかねませんでしたね・・・昔の彼は」
私は、翼君に言われたとおり、
白いドレスを着ていた。
衣笠先生は、タキシードだ。
「真壁君の力でしょうか。
それよりも、指示通りに礼装で来ましたが、
何をするんでしょうね?」
「・・・やっぱり、衣笠先生も聞いていない?」
「悠里さんもですか。これは・・・
用心してかからないと駄目ですね」
腕を組み、おそるおそる校庭に足を踏み入れると、
晴天であるのにも関わらず、
ドームは閉まっていた。
時間前に着いたのに、大方全員揃っているようだった。
「先生、ひっさしぶりだね!」
悟郎君は、珍しく(?)男装をしていた。
ジーンズにシャツ、というラフな格好だ。
翼君も、同じようにラフなファッションだったが、
タグを見れば有名なブランドなのだろう。
さりげなく着こなしている。
「悟郎君、・・・久しぶりね。
翼君も、今日はありがとう」
「ふ・・・気にするな。
それよりも、タンニンはこっちだ」
「え・・・?」
「ふっふ〜ん、オヤクソクでしょ、お色気直し」
腕をがしっと掴まれて、無理矢理連れ出される。
衣笠先生に目で助けを求めると、
ひらひらと手を振られる。
・・・楽しそうだ。
「・・・悟郎君、それを言うならお色直しね・・・」
到着したばかりなのに。
お色直しも何も無い。
今は誰もいないバカサイユには、
一君と瑞希君が待機していた。
掃除を済ませてあるバカサイユに
彼らがいるのを見ると、
どうしようもなく懐かしくなる。
「よ、久しぶり。
よくも俺たちに黙って結婚したな」
「一君、瑞希君。 君たちも、今日はありがとう」
「・・・ん・・・」
「そんじゃ、これ見て見て」
悟郎君が取り出したのは、見事なヴェールだった。
繊細なレースが折り重なり、
小さなパールがちりばめられている。
「これさ、ボクが作ったんだよ!」
「ええっ・・・本当に!?」
「そうそう。 先生、つけてね」
「お前に指示された造花類や、リボン、
コサージュも一応揃えて置いたが、
それで良いのか?」
「ありがと、翼」
「随分と手が込んでいるのね」
「ホントは、当日に大騒ぎしてやりたかったのにさ。
衣笠の奴がさっさと先手を打つんだから、嫌んなるぜ・・・」
手際よく髪が整えられて。
ヴェールが視界を遮った。
「そのリボンは、・・・俺の母親のものなんだ。
だから、 Something old はあるな」
「翼君、そんなに大切なもの・・・」
「良いんだよ、たくさんある中のひとつだし・・・。
それに俺は、アンタに持ってて欲しいんだ」
「ゴロちゃんのヴェールも、大事にしてね。
どうせなら、ボクとの結婚式で
身に着けて欲しかったけどさ」
「・・・お前の結婚式って、
衣装はどうするつもりだ」
「え? ボクもドレス着たいし。
二人でウェディング・ドレスもありかな」
「・・・俺を招待するなよ?」
「ところでさ、さむしんぐおーるどってなんだ?」
一君が不思議そうに訊いた。
「ええっとね、男の子なら普通は
知らなくて当たり前かもしれないわ。
結婚するときに、四つのものを花嫁が
身に着けると、幸せになれるという言い伝えがあるの。
悟郎君も翼君もよく知っていたわね」
「俺は向こうでの暮らしが長かったからな」
「ボクだって知ってるよ。
何たって、女の子のマロンだもんね〜、センセ」
「はいはい、ロマンね。
えっと、古いものと、新しいもの。
青いものと・・・あとひとつ、
なんだったかな?」
「・・・something borrow」
「そう、借りたものだった。
瑞希君も、よく知っているのね」
「ってことは、新しいものと古いものはもうあるんだな」
そのとき、電話の着信音がして。
瑞希君と翼君とが、準備のために席を外した。
「君たち、何か企んでいたりしない?」
一体、何の準備だ。
「してないしてない」
「してたとしても、ナイショにするもん。
ていうかさあ、ちゃんとしたウェディングドレス着た
先生を見たかったなあ。
絶対キヌちゃん、センセを独り占めしたかったんだよ」
「私のドレスなんてどうってことないわよ。
気持ちだけ、ちゃんと貰うから」
「俺は・・・見たくない気持ちもあったけどな。
清春もさ、懐いてた先生の結婚が決まって、
内心でがっかりしてると思うぜ?」
真っ先に、清春君に知らせた。
清春君がいなければ、
私と衣笠先生の結婚は、
ありえなかったと思うから。
「今日は・・・来てくれてる?」
「いるよ、キヨも。
あ、ほら。出来たよ。
髪の毛、痛くない?」
「うん・・・、悟郎君流石だわ。
凄く綺麗ね。 ありがとう」
「よし、こっちの準備はとりあえず終わり。
皆のところへ行こう?」
to be continued
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