●● The kiss of life ●●
ロベルトは怪しい。うさんくさい。
それは、きっと、史上最強のギャンブラーだからってだけじゃない。
「ロベルトとライルはやっぱり、似ているわ」
「そうッスか? あんまり言われないんですけどね」
ロベルトの私室は、居心地が良い。
私がそれだけ、馴染んでしまったからかもしれない。
ロベルトはベッドに横たわる私の髪を梳っている。
傍らにいる。その気配。
私の黒髪は平凡だと思うのに、宝物のように触れてくる。
自分がとても大切に扱われていると感じるとき、戸惑う。
この異常な男は私の何を気に入ったのか。
残酷で、気まぐれで、人間を人間とも思っていないようなこの男は、
ギルカタールがよく似合う生粋の悪党だ。
私は、そんな危険な男は嫌いだ。
嫌いなはずなのに、優しくされると、惑う。
先生といるときも、絶対的な安心感と同時に
いつもどこか試されているような緊張感があった。
そこが似ていると言うのは止めた。
気を悪くするような気がしたからだ。
「賭けで、負けたことはある?」
「ありますよ、そりゃ。そうでなかったら、面白くないでしょ?」
「・・・ライルと賭けをしたら、やっぱりロベルトが勝つの?」
「ライルが相手ならフェアにならざるを得ませんから、
運次第じゃないですか」
「イカサマなしってこと?」
「そうです。まあ、俺もあいつも相当強運ですから、
面白いゲームになるでしょうね」
私を抱くときの、爬虫類のような無機質な瞳。
貪られる感覚。丁寧に、容赦なく施される愛撫に怯える。
気取られないように必死で息をつめてやり過ごしながら、
男は私を笑っている。
本当は怖い男なのだ。
先生も、ロベルトも、私の手に負えるような相手じゃない筈、
・・・本来なら。
私の周りには《普通》の男などいないのだから
仕方ないのかもしれないが、
自分の男の趣味が疑わしい。
「私が相手なら? フェアに勝負する?」
「難しいな・・・。 アンタが相手なら、
負けても良いとも思ってますから。
イカサマしても許します」
「ロベルト相手にイカサマなんてしないわよ」
夜の街の城――カジノに君臨する王の手並みは周知の事実だ。
洗練を極めた技術は芸術に等しい。
「大体、俺のものは全部アンタのものだから、賭けるものもないです。
今更俺の何が欲しいってんですか?」
甘い言葉や、悪戯な笑顔も偽りではないのに。
「ロベルト、私のものなの?
ちっともそんな気がしないわ」
本心だった。
「何でですかね〜。 こんなに愛してるのに。 もう、骨抜きなのに」
顔を見合わせて、笑い合う。
「恋愛って、ギャンブルに似てますよね。
でも、スリルは比べ物にならない。
賭けるものは金じゃないんです。
アンタに嫌われたら、俺は生きてけない気がします・・・」
後ろから抱きすくめられ、布越しに感じる体温に、痺れた。
耳朶を噛まれ、舌で弄ばれる。
お腹にそえられた手は私を固定している。
「・・・私も、好きよ。ロベルト」
やっとそれだけ口にした。
例え、悪党でも。何者であってもかまわない。
私も私の全てを賭けて恋をしたのだから。
その心が離れても、悔やまない。
それだけの価値があったと言い切れる。
「もっと、言ってくれません?」
ことばでなくキスで返事をした。
「・・・スリルに病み付きになる気持ちが少し分かるわ・・・」
ためにならないし、破滅的なのに、麻薬のような中毒性がある。
「アンタはギャンブラーの素質があるって言ったでしょ。
俺の目は確かですから。だから、アンタを恋人にしたかったんです。
―― プリンセス」
イカサマでも良いから、一生騙し通して欲しいと言ったら、
ロベルトは笑うだろうか。
跪いてキスして、愛を誓うかもしれない。
私は想像だけ巡らせて、想いは内に秘めた。
もう一度キスをすると舌を掬い取られる。
溺れる間際のような切実さで、私はロベルトにしがみつく。
目を瞑り、二人だけの世界と熱に没頭する瞬間は
何度繰り返しても圧倒的にスリリングだと思う。
ロベルトもそう感じているのなら、良い。
手をつなぎ合わせて、
気持ちが伝わるように願い、
私は私を手放した。