「見事なものですね」
卒業式の日。
柚木先輩は親衛隊は勿論、
普通科・音楽科、学年の垣根を超えて
女の子に囲まれていた。
やっと、一段落ついて、
私が会いに行ったときには、
先輩の機嫌は最悪だった。
「・・・やれやれ。 疲れた。
スカーフをむしられそうになったときは
流石に驚いたな」
「あはは、流石です」
「笑い事じゃない」
「・・・断れない、先輩が悪いんですよ」
私だって、好きな人が自分以外の女の子に
囲まれているのは見たくない。
「大体スカーフなんて嬉しいものか?
同じだろう、制服なんだから」
「そうですね。
身に着けていたものを持てば、
そのひとを身近に感じられる・・・、
ファンの心理なんでしょう」
「・・・お前も欲しいのか?」
「私は、いりません。
モノだけあっても仕方ありませんから。
かえって寂しくなりそうで」
先輩のものが、手元にあれば、
いてもたってもいられなくなる気がする。
よりいっそう会えない時間に苛まれるだろう。
「それよりも、時間を割いて
会ってもらえる方が私には嬉しいです」
「・・・へぇ。 そんなものか」
「火原先輩も囲まれていましたよ。
・・・先輩たちがいなくなると、寂しいです」
「たち?」
「・・・柚木先輩が、いなくなると。
月森君も行ってしまうし・・・、」
「仕方ないね、まったく。
頼むから泣かないでくれ」
「・・・泣きませんよ」
先輩は、私の首に常にかかっている、
ネックレスを引き出した。
クリスマスに贈られたそれの鎖を私はつけかえた。
通常よりもずっと長くしてあるので、目立たない。
トップの鍵にキスをして、先輩は笑う。
距離が近い。
「・・・お前の熱で熱い。
本当にいつも身に着けているんだな」
「恥ずかしいこと、言わないでください」
「新しい扉を開きに行く、門出だ。
お前だっていつかは通る道なんだよ、日野。
だから笑ってろよ、俺だって心配になる」
「・・・はい」
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