「緊張しているのか?」
「・・・そうですね。
何度繰り返しても、
人前で演奏をするのは苦手です」
力なく笑う彼女は一人だった。
衣装に着替えていた。
コンサートを間近に控えて、
喧騒を避けて一人になりたかったらしい。
声をかけたのは、気まぐれからだった。
緊張が伝わる。
こちらまで息が詰まるようだった。
純白のドレスは、彼女そのもののように思われた。
何にも染まらぬ潔癖さ。
「集中の邪魔をしているな、すまない」
「いいえ。文化祭を見学にいらしていただいて、
嬉しいです。・・・ありがとうございます」
「運営に携わるものとしての義務だ」
「楽しめましたか」
「まあ、それなりには」
「・・・良かった」
心底安心したように、彼女は笑う。
「今の君を助けてくれるものは、
魔法ではない。・・・魔法は、既に解けている」
はい、と返事をする。
まっすぐなまなざしが突き刺さる。
「だが、私が君を見ているから・・・
君は君の思うとおりにすると良い」
音楽に囚われて生きる者の愚かしさを、
愛して止まない私が、見届ける。
「あ・・・はい!」
「楽しませてくれ、期待している」
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