守ってやるから

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好きなひとがいる。
この世の誰よりも好きなひと。
彼女は僕の運命だった。
僕に許された最後の聖域。

―― だから、彼女を守る。

「・・・加地、お前は過保護だ」

「そうだよ、いけない?」

体育の時間に足をくじいた彼女を、
抱きかかえて保健室に運ぶ。
彼女は困惑していたが、
僕は頓着しなかった。
衆目を集めても気にならない。
疲れが溜まっているのか、
近頃彼女は上の空だ。
保険医に促されるまま
ベッドに寝かされると、
すぐに寝入ってしまった。
体育の時間が終わって、休み時間。
真っ先にかけつけたのは土浦だった。

「カラダを傷つけられるのだって、嫌だけど。 
もっと大切なのは、ココロの問題。
だって、それは目に見えないからね。
僕の知らないところで、
日野さんに傷がつくと思うとぞっとするよ」

だから、過保護なくらいでちょうどいい。

「お前だって、いつでも傍にいてやれないんだぜ?
日野は、お前が思う程柔じゃねえだろ」

「土浦は、僕よりも付き合いが長いよね。
・・・余裕があるのかな?」

「余裕って・・・お前なぁ」

「僕は土浦とは違う、本気で好きなんだ。
僕以外の誰にも渡したくない。
何からも守ってあげたいんだ」

「俺だって、日野が好きだ。
お前と同じか・・・それ以上に。
ただ俺は、あいつの好きにさせてやりたい。
必要なときだけ、助けたり、味方したりすれば
良いんじゃないのか?」

必要なときだけ?

「・・・いつでも、当てにしてもらいたいじゃないか?」

何か、あったら。
僕を思い出して欲しい。
他の誰でもなく。
僕に助けを求めて欲しい。

「・・・そうかよ」

僕と土浦は、まったく違う。
人前でピアノを弾けずにいた時期ですら、
彼は鍵盤に触らなかった日は無いのだ。
僕は一度、ヴァイオリンを諦めている。
そのときの痛みは今なお種火のように
消えないまま、僕の内を熱く焦がし続けていた。

「さっさと、出て行ったら?」

「お前と日野をふたりきりにしたくないんでな」

「・・・手なんか出さないよ?」

今はまだ。
いつになっても、何も出来ない気もするけれど。

「それでも、嫌だ。
まあ、直に他の奴らも来るだろうしな」











end.



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