マイ・フェア・レディ オマケ
ふとした折りに気が付く。
彼女は大人になりつつあるのだ。
週末には必ず俺の部屋に訪れる彼女は
あらゆる意味で特別な『生徒』だった。
自らの好みに仕込む楽しみは格別。
オレを慕い無邪気に笑いかけてくる、
素直で柔らかなこころは俺の手の中にあった。
ほんの少し気が向けば、ぐちゃぐちゃにしてやれるほどに。
別れた女を思い出す。愛していたのに裏切られた。
誰かを想うのは割にあわない。
何だってオレに惚れたりしたんだろう。
その日彼女はいつになく大人びた服装をしていたから、
急に不安になった。
もうじきに俺の手からすり抜けてしまうんじゃないか。
あの女みたいにオレ以外の
誰かのところに行ってしまうような気がして。
「脱げよ」
タバコを消した。
「脱げって…今ですか」
「そう。脱がして欲しい?」
口調にオレの本気を悟って、諦めたように顔を伏せて
目を瞑りボタンに手をかける。
キスをねだるととてもつたない。
必死なのが分かって、いとしくなる。
おまえもいつかオレから離れていくんだろうか。
オレの知らないところで幸せに
なるくらいなら。いっそ。
ガキみたいに抑制がきかないままがっついて、
オレに味をしめてくれるように祈る。
細胞のひとつひとつに刻み込んで逃がさないように。
外は昼間。日差しは明るいけれどそんなものは知ったことか。
世界には二人で足りる。
「はやく俺のやり方を覚えろよ」
オレ以外の誰にも満足できない身体にしてやりたい、
だなんてくだらないことを
本気で考えるくらい参ってる。
あまり急いで大人になんかならなくても良い、
って言ってやりたい。
今のおまえが好きだよ、って。
「大人になると、傷の治りが遅くなる分臆病になるもんなんだ」
眠り込む彼女の髪を梳きながら独り言を漏らした。
くちびるを指でなぞる。
強く噛みすぎて赤く腫れていた。
色っぽくてぞくりときた。
大人の、いや…女の風情ってやつかもしれない。
…もう少しだけ、オレだけの『生徒』でいてほしい。
それもまごうかたなき本心ではあるのだが。
眠っているのに、キスしているうちにじわじわと欲情してきたので、
悪戯することにした。
はやく目を覚ませ。
そしていつものようにオレだけを映して焦がれる
瞳から溢れる涙を嘗め取りたかった。