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価値観を刷り込まれ続けた子ども。
家は何にもまして優先するもの。
まさか、その《家》が壊れるなんて、
俺は夢にも思わなかった。
「大丈夫ですか、先輩」
「・・・何が」
「先輩が、ですよ。
加地君に対して、本気で怒っているように見えました」
「当たり前だ。
本気で怒っていた。
俺を宥めるために来たのか?」
「・・・そうですね」
「それなら、こっちにおいで」
俺は、その華奢な身体を強く抱きしめる。
微かにかたくなったが、日野はじっとしていた。
「抵抗、しないの?」
「しません」
「ふうん・・・」
いつだって、他人の意向を優先させてきた。
それは、その方が楽だったからだ。
操られているふりをして、
その実は操って、腹の底で笑う。
加地の言葉は、多少、痛かった。
いつからか色あせたモノクロームの世界を、
あっさりと極彩色に塗り替えて見せた女は、
俺の腕の中にいる・・・。
「お前からは、匂いがしないな。
俺の、好みだよ」
「落ち着きましたか・・・?」
「はじめから、落ち着いている」
「それなら、良いんですが」
安心したように笑って、日野は俺から離れた。
「加地君は・・・どうして、
あんなにムキになったんだろう。
少し、驚きました」
「俺の何かが、許せなかったんだろう」
「先輩には、分かるんですか」
「まあな」
あいつの欲しいものを、
俺は手に入れられるのに、
それを手放すことが、
許せなかったのだろう。
音楽の女神。
「・・・何もかもを欲しがれる程、
俺は子どもじゃないんだ」
でも、俺は、お前だけはきっと手放せない。
定められた優先順位の全てが壊れて、
刷り込まれた価値観が端から壊れても。
手放せないものが出来た、その喜び。
「だから、お前だけは俺のものでいろよ」
今なら、俺はお前を浚って逃げられると思う。
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