私と、清春君はよくケンカをする。
正確には、清春君が私を挑発するのが日課なのだ。
私としては止めて欲しい・・・が、
清春君は、人を怒らせたり、嫌がらせたりするのが
嬉しくてたまらないという性分なので、
半ば諦めていた。
ただ、その日は・・・、
何かがいつもと違っていた。
「ブチャブチャってね・・・、
そこまで言わなくたって良いじゃない!」
「ブサイクにブサイクって言って何が悪ィのか
分っかんねェなァ!」
「悪い! 悪いわ。
君はもう少し・・・女心ってものを理解しなさい」
清春君は、誰に対しても平等に悪魔的だが、
何分私はこの悪魔が好きで、
あまつさえ付き合っているのだ。
それなのに、一向に甘い雰囲気にならない。
もう少し、もう少しだけ、
ロマンチックになりたいと思う私は、
子どもっぽいのかもしれない。
でも、それが女心ではないかとも思う。
いくつになっても、・・・憧れてしまう。
「私にだって・・・私にしかない
魅力があるかもしれないし・・・」
清春君含め、B6は無駄にキラキラしているので、
引け目を感じるけれど、
そこまで酷くはない・・・と思う。
いや、思いたい!
「ま、思うのはジユーだよなァ・・・。
や〜い、ブチャ」
「・・・むっか〜っ! あったまきた!」
本気で言っているのではない。
それは、分かっている。
しかし、好きなひとが言うのなら話は別だ。
些細な言葉であれ、
本心でなくたって、
気にするし、傷つく。
清春君は、そこのところを分かっていない!
清春君も少しは私のために振り回されるべきだ、という
思いが猛然と湧いてきた。
「私は決めました。
―― 浮気します!」
「・・・おい。 悠里。
ちょっと待て」
「君には分からない私の魅力を・・・!
分かってくれるひとだって、
たくさんいるんです!」
「はァ? いきなり何を
言い出すかと思ったら・・・」
「そういう訳で、私は向こう三日は帰りません。
その間ヤキモキして過ごすと良いんだわ!」
「オイ! 本気でちょっと待てって・・・」
「知りません! 反省して、謝るまでは帰らない」
財布と、携帯だけを持って。
ドアの外に出た後で、
階段を急いで下りた。
幸い、今は夏季休暇の最中で。
仕事もキリの良いところまで終わらせてある。
―― ひとが・・・誰のために、
仕事を急いで終わらせたと思っているのよ・・・。
必死でオフを作ったのに。
二人で、ゆっくりするのを楽しみにしてたのに。
思い切り、走った。
久しぶりに走ったら、息が切れて、
足がすぐに痛くなった。
つくづく、情けない。
「・・・・・・っ、
馬鹿・・・・・・、清春・・・」
空き缶を思い切り蹴った後で、
思いなおして、ゴミ箱に捨てる。
「私は何をやっているの・・・」
とにかく、今日は友達の家に
泊まらせてもらおうと、
携帯電話を手にした途端、
偶然着信が入る。
表示された名前は、懐かしいものだった。
to be continued
Copyright(c) 2007 all rights reserved.