Say you love me! 翼&一編

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着信の表示は、翼君だった。
私の携帯番号とメールアドレスは、
担任したクラスの生徒ならば全員知っている。
が、B6は中でも親しくしている生徒だった。


「・・・翼君。 どうしたの?」

「いや、・・・まあ、ちょっと。
タンニン、今どこにいる?」

「私・・・私は今・・・」

ひたすら、歩き通して、
小さな公園にたどり着いていた。
しかも、見たことが無いところだ。

「・・・知らない公園」

「馬鹿か? 夏で明るいとはいえ、
アブナイだろうが・・・。
今そこに一と行くから、そこを動くな」

「場所、分からないのに。
どうやって来るの・・・」

久しぶりだった。
どうして、一君といるのだろう。
とりとめのないことを考える。

「住所は分かるだろう、それを言えば良い。
目印になるようなものも言えよ」

ふ、と電信柱を見ると。
示された住所は、かなり遠かった。
よくここまで歩いたものだ。
促されるまま読み上げる。

「30分待て。 絶対に動くな。 良いな」

・・・子どもじゃあるまいし、
これでは私がまるで迷子みたいだ。

「うん・・・」

ブランコに乗って、携帯を握り締めて。

―― 清春君の、着信じゃなかった。

どうしよう。
・・・本当に、何をしているんだろう。








住宅街に場違いな高級車から。
住宅街に場違いな美形が二人現れる。

(住宅街に場違いって、それもおかしいか)

何処にいても、周囲から浮き上がる。
それが彼らだったから・・・。


「よ、久しぶり・・・先生」

「こんなところにいたのか・・・
仕様のない馬鹿だな」

二人が現れる頃にはもう、気持ちがぐちゃぐちゃだった。

「久しぶりに会ってそれはないでしょう・・・」

自分でも、嫌になる程わかっているのに。
この上さらに人から馬鹿だなんて言われたくない。

「あ〜・・・こら! 翼、泣かすなよ・・・」

「え!? 俺か?」

「・・・泣いてません。
大体、どうしたのよ君たちは・・・」

誰も、頼んでないのに。

「それは、俺たちの台詞だろうと思うが・・・」

「久しぶりに、翼と会っていたら、
急に懐かしい気分になってさ。
先生を呼び出してみたんだ。
ぱ〜っと騒ごうぜ?」

「・・・オイ、一」

何か言いかけた翼君の口元を手で押さえて、
一君はにっこりと笑いかけた。

「何があって落ち込んでるのか
知らないけどさ、そういうときは
思いっきり遊ぶのが良いんだって」

「・・・うん。 そうしようかな」

どうせ、家に帰りたい気分ではない。
この頃ずっと仕事ばかりで、
遊びにかまけている暇もなかった。

「よし、二人とも。今夜は付き合いなさい。
元・恩師の頼みだと思って・・・お願いするわ」

ブランコから立ち上がって、
スカートをはたく。

「・・・やれやれ」

「はいはい、お供するぜ」

「その代わり、今夜は私が奢るから」



高級車に向かって歩き出す。

随分時間が経ってしまったような気がしたが、
まだ夜は始まったばかりだった。








「奢るって・・・先生、カラオケかよ!」

「聖帝は教師は薄給なの、文句言わずに
さっさと入れないと、私が一人で歌うわよ!?」

「・・・初めて入った。
これがKARAOKEか・・・」

私が二人を連れて行ったのは、
駅前のカラオケショップだった。

「翼君、カラオケ初めてなの?」

「ああ」

「すっげーな、それ。 流石お坊ちゃま」

「そういうお前はどうなんだ、一」

「俺はフツーにあるけどな。
先生は、教師陣で行ったりすんの?」

「結構ね。 ほとんど葛城先生の独壇場だけど。
意外と校長が上手かったりするのよ?」

「へぇ・・・。 選曲の予想がつかないメンバーだな」

ドリンクは、アルコール入りを含めてフリーにした。
平日の夜だが、今は夏休みだ。
学生や社会人や、様々なグループでにぎわっていた。

「かたっぱしから入れて歌いまくる。
飲みまくってやる・・・!!」

「あの・・・程ほどにしろよ、先生」

「メンドウなことになりそうな予感がするんだが・・・」

二人の声を振り切って、
私はマイクを片手に張り切ったのだった。











to be continued









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