白い日
※神城綾人 独白
若干性描写があります。『瓶詰め手紙』オマケ
彼女は本当に綺麗になった。
けれど彼女の本当の良さは深く知らないと分からない。
まるで自分のことのように僕のために怒ったり笑ったりしてくれる
唯一無二のひとだ。
近頃、歯止めがきかなくて参っている。
押し倒してしまいたい衝動をおさえきれない。
彼女が僕によこしたチョコレートは小さなハート型をしていて、
口に含むと柔らかく溶けて舌にしみた。
たくさんの女の子たちに贈られたチョコレートは
自らを主張するかのように千差万別で
その中で彼女のそれはとても地味だった。
手渡されたとき。
顔を赤らめて、緊張にこわばりながらうつむく。
学校であるこ
とを忘れて丸みをおびて華奢な肩に顔を埋めたかった。
―忘れて?
いや、あらゆるひとに見せつけてやりたかった。
彼女は僕のものだと。
細い首筋にかみついて跡を残してやりたい。
乱暴に髪をすいて存分に触れてみたかった。
かなわない願いだと知ってはいたのだけれど。
僕の体によけいな負担を強いられないので、遊び相手とは寝なかった。本当にそうしたいとも思わなかった。
彼女に会ってから、初めて心の底から望んだのに。
どうしてこんなタイミングで出会ったんだろう。
僕は彼女から離れる決心を固めていた。
卒業は近い。
小さなハートのかたちをしたチョコレートにおかえしをしなくては。
ホワイトデーだから。
何かを残していく。
例えばふと彼女からかおる優しい香りにすら欲情することを彼女は知らない。
彼女がよく訪れる自室の残り香に浸りながら、
ズボンの内側に手を滑り込ませた。
あまり自分で処理したことはない。
僕は生きているのに手一杯でセックスにかまけている余裕はなかった。
機械的に刺激を与えているつもりなのに、彼女の指を夢想した。
その羞恥にゆがむ顔を。舌の柔らかなぬれた感触を。彼女の裸体を。
「・・・っ、あ、ヒトミ・・・」
彼女は僕の腕の中で、どんな声をあげて何を話すだろう。
僕は彼女に優しくできないかもしれないけれど、
泣かせてもみたいから。
慰めて、謝って、機嫌を取って。
なだめるようにキスをする。
彼女の名前を呼んで僕は達した。
手についた白濁をティッシュで拭き取る。
むなしかったがかまわない。
彼女をこの手に抱かない。
それは僕の絶望であり希望でもあるのだから。
窓をうすく空けて換気をした。
彼女の残り香が消えるのを惜しみ僕はベッドに顔を押しつけて泣いた。けだるい体。
愛してる。
明日は最後の嘘を吐く日―
君と過ごす最初で最後のホワイトデーだった。
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