失楽園
兄妹で暮らしていると周囲に言うと、仲が良いんだ、と言われる。
そう、私とお兄ちゃんはとても《仲が良い》。
すみかどころかベッドまで共有する仲なのだから。
私は初めてだった。
お兄ちゃんは殊の他優しく、
けれど一瞬のためらいもなしに私を犯した。
痛みと喪失と、それらをはるかこえるよろこび。
快楽はあった。
そしてそれ以上のなにかがあった。
私たちは共犯者だ。
部屋を暗くして、
洗いたてのシーツの上で、
互いをむさぼりながら、
私たちはかけがえのない二人
…両親を想う。
頭から離れない。
私たちは裏切った。
ごめんなさい。
…ごめんなさい…。
神様に許しは乞わないけれど、
それだけがとてもかなしい。
何故子どもの頃のように
二人手をつなぐだけじゃ足りなかったんだろう。
それなのに私は決して悔やまない。
ベッドの上でだけは、名前を呼ぶ。
お兄ちゃん、とは呼ばない。
罪悪感なんて感じたくない。
ただ唯一無二の恋人としての、
あなたを選んだのだとしらしめたくて。
私を抱く兄の顔は見えない。
感じられる熱だけを信じて。
この世界に二人きりになれるようなどこか遠いところに
旅に行けたら、いいのに。
それでも、それでも私はあなたしか愛していない。
古いシャンソンの歌詞が頭によぎり、
私は兄の背中に腕を回した。