私はもう寂しくないの

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「あんな男のどこが良いんですか・・・」

ハートの城のお茶会は、午後三時。
誰の領土にも自由に出入りが出来るのは、
《余所者》の特権だ。


「辛気臭いし、融通が利かないし、仕事中毒だし、
朴念仁で面白みがないし・・・、
って、何を笑っているんですか、アリス」

「貴方が子どもみたいに拗ねているのがおかしいからよ、ペーター」

「・・・僕よりも、ユリウスを選ぶなんて・・・、
男を見る目がないんですよ、貴方は」

「仕方がないわよ、
好きになってしまったんだもの。
貴方が今挙げた欠点も、
まるごと全部ひっくるめて、
彼が良いんだもの」
「貴方が残ってくれて、良かったとは思いますがね・・・」

白兎は憮然とする。
ブラッド・デュプレならまだしも、
何故ユリウス・モンレーなのか分からないのだ。

「ナイトメアの祝辞は早かったわよ?
『白兎も浮かばれるだろうよ』・・・だって」

「・・・複雑なんですよ」


アリスの幸福と救済が最優先だったのだから、
報われなかった訳ではない。
しかし、それでも・・・。

「他の男にくれてやるのが悔しくてなりません」
「娘を持った男親みたい」
「・・・それなら、もっと、力の限り邪魔します」
「もう、止めてよね。 ペーター。
貴方が私をつれてきたのよ・・・祝福してよ」
笑うアリスは、かつて無いほど穏やかだった。

「父には知らせられやしないんだもの。
せめて貴方が許してちょうだい。
おめでとうって、言って。
貴方がそう言ってくれたら、
私きっと本当に安心できると思うから」

「・・・やれやれ。 分かりました。
おめでとうございます、・・・アリス」

「・・・ありがと。 私はもう、大丈夫。
貴方に心配かけたりしないって、約束するわ」





ペーター・ホワイトはアリスに最も近かった。
例えアリスが他の男を選んだにしろ、
その死を悟るのも早かったのだ。
彼女がいない。どこにもいない。
躊躇せず、引き金を引く。
最早、失って惜しいものなど何も無かった。
口に銃口を押し込み、一発撃った。
時計が止まる。残像になる。
世界と自分の境目がぐずぐずと溶けていく。
―― 君の不在にだけは、僕は耐えられない。

意識が消滅する瞬間、アリスの声がした。

『私は、もう・・・大丈夫。寂しくないわ、ペーター』

それなら、自分が存在した意味はあるのではないだろうか。
彼女の笑顔には、自分が殉じる価値がるのではないだろうか。
自分は役目を果たしたとペーターは確信した。
永劫の時に回帰する感覚は、悪くないと思った。







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