YOU ARE MY・・・
「あのね、土浦。 ちょっと相談があるんだ」
加地と土浦は割と仲が良い。
普通科からアンサンブルに参加している境遇は
珍しかったし、転校生で慣れないことの多い加地の
面倒を見ることが多かった。
加地は人当たりが良い反面気性の激しいところがある。
思いがけない行動に出る加地を土浦は時折もてあましていた。
が、生来面倒見の良い性分が災いしてつい貧乏くじを
引いてしまうのだった。
その日も土浦は薄々嫌な予感がしながらも
加地に誘われるまま普通化の屋上にいた。
「どうした?」
「僕、ちょっとどうかと思うくらい好きなひとがいるんだけど」
土浦はジュースを噴出しそうになった。
それは加地が奢ったものだったが、
高くつきそうだ。
「最近歯止めがきかなくて、
そろそろ襲ってしまうかもしれないんだ。
どうしたら良いだろう」
「・・・今ほど聞かなきゃ思ったと実感したときはないぜ」
「真剣に悩んでいるんだけど」
「ふざけるなよお前・・・」
加地は本気だった。
「僕の好きなひとは優しいひとなんだ。
本当に誰にでも優しくて、ちょっと参るよね。
いつも誰かといるんだよ。
僕は淡白な性格だと思っていたのに、
全然我慢がきかなくてさ」
「・・・ああ、そう」
「真面目に相談に乗って欲しい」
「乗れるかバカ!
何で俺に言うんだよ、
そんなの日・・・本人に言えば良いだろ」
「・・・怯えさせてしまったら嫌じゃないか」
「俺だって怯える!」
「君なんかどうだって良いもの」
「・・・本当にふざけるなよお前」
フェンスに寄りかかり、とつとつと語る加地が、
日野にいれあげているのは有名だった。
ファンを自称し、日野のために転校までした経緯を知っていたが、
流石にここまでとは思わなかった。
「僕だけのものになって欲しいのに」
「いや、俺に言われても困る・・・」
日野は、自然とアンサンブルのまとめ役に
なってしまっているので、常に練習で忙しい。
楽譜の練習だけではなく、皆の予定を調整したり、
時に発生するトラブルまで処理している。
「今も僕以外の誰かと一緒にいるんだ。
罪深いひとだよね」
「お前、俺の話聞いていないだろう?」
加地は、にこりと笑って頭上を指差す。
「太陽みたいなひとなんだよ。
誰にでも平等に光を降り注ぐ。
恵み深い、崇敬の対象だ。
独り占めしたい、と望む僕の方がきっと
間違っているんだろうね」
輝く太陽の日差しは強く、
肌寒い日が続いた反動のように暖かい日だったが、
土浦は心底寒気を感じた。
「何が哀しくて俺がお前の世迷言を
聞かなきゃならないんだ・・・」
「だって、本人には言えないじゃない?」
「俺にも言うな!」
「我慢してよ。 本当に苦しいんだ」
「知るか! 言ってみたら良いだろ。
あいつはあれで度量が大きいから、
笑い飛ばしてくれるかもしれないぜ」
「そうだといいなあ。
嫌われたくないし」
土浦は、取り合うのを止めた。
加地は身を乗り出して景色を眺める。
確かに、ここは悪くないと土浦は思う。
ここは少しだけ太陽に近い。
惜しみなく降り注ぐ強い日差しが眩しい。
「嫌われるのが怖くて何も出来ないなんて、
参ってしまうよね」
「・・・何で、俺に話した」
「君なら、僕の気持ちがよ〜く
分かってくれる気がしたからかな。
同病相憐れむ、ってヤツ」
土浦は舌打ちする。
「・・・お前、最高に嫌な奴だな」
「よく言われる」
強すぎる日差しを遮るように目を覆っていた土浦は、
空に向かって手を伸ばしてみた。
何かが掴めそうな錯覚を覚えて。
「You are my sunshine、か」
昼休み終了まで五分。
空いた缶を手に、ドアに向かう。
心地よい陽だまりから遠ざかりながら、
土浦は加地を睨む。
意に介さなないで、加地は口笛を吹き始めた。
懐かしい曲の。
―― そう、例えば雲が空を覆う、そのときでも ――。
君は、僕の陽だまり。
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