眠れる衝動を激しく憎悪する。
理性の力では、どうにもならない渇き。
吸血鬼の本能を、制御することが出来ない。
父が気まぐれに捕らえた獲物、
《花嫁》である母の顔を知らない。
退屈を紛らわせるために、
新しい玩具を欲した父が、
戯れに生み出した命。
何故だろう。
吸血鬼は、愛する者の血を欲する。
黒貴族は、その瞳で獲物を魅了し、
操ることすら出来ると言う。
だが、魅了すればその獲物の意志は損なわれる。
《花嫁》たちを、父は本当に愛していたのだろう。
だからこそ、絶望せずにいられなかった。
手に入れた瞬間に、失われる矛盾。
心優しい王女は、自分が望めば
容易く血を与えるだろう。
この渇きも癒される。
それを想像するだけで、熱くなる。
満たされる瞬間を。
「姫・・・、フィーリア様・・・」
自分の中に流れている忌まわしき《闇の者》の血。
もしも、その心を永遠に手に入れられるとしても、
自分は決してそれを望まない。
望まないでいられることが、嬉しかった。
「母よ、どうか力を」
破壊された調度。
騎士与えられた宿舎の一室で、もがき苦しむ。
徒労だと知っている。
時間の問題なのだと。
嘲笑う父の声が響くような気さえする。
「どうか・・・」
やっと見つけた大切なひとを、どうか壊させないでくれ。
end.
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