「はい、南先生」
「・・・配布アンケート用紙ですか」
時折行う、生徒を対象とした調査の用紙だ。
ホームルーム時などを利用するのだが、
私のクラスは回収率が低く、
学級委員にいらない手間をかけさせてしまう。
「ごく、簡単なものだよ。
生徒会報のためにいるそうだね」
聖帝は何につけてもゴージャスなのだが、
会報も流石に手間がかかっている。
私は、内心で現行の生徒会が苦手だった。
何故か、一君に執拗に絡むからだ。
生徒間のトラブルなど珍しくも無いけれど、
やり方が陰湿すぎる。
なんとなしに気分が沈み、
手元のアンケートに目を通す。
質問項目がざっと並び、選択肢に丸をつけたり、
余白に回答を書き込むお馴染みの形式だった。
「『貴方の思う幸せとは、何ですか?』
・・・面白いアンケートですね」
私の生徒たちなら、何と答えるだろうか。
想像も付かない答が飛び出してきそうだ。
「鳳先生は、何だと思います?」
「そうだな・・・月並みだけど、
可愛い奥さんと子どもがいる暮らしかな」
「あら・・・、
きっと良い旦那様になりそうですよね、
鳳先生なら」
何と言うか、鳳先生は非常に持てそうなので、
少し意外な気がした。
(女性のあしらいになれていらっしゃる感じよね)
「南先生、そう思ってくれます?
なかなかそう言ってくれるひとがいない」
にこりと笑う、その笑い方はとても魅力的で、
確かに、両手に余る恋人候補が名乗りを挙げそうな気がした。
「私は、本当に好きな人には
とことん尽すタイプだと思うよ?」
鳳先生は、凄く大人の男のひとなので、
きっと・・・相手をうんと
大切にするんだろうと思った。
いざというときには、頼りに出来るパートナー。
少し、羨ましい。
「そんなひとと結婚できたら、
幸せでしょうね」
「南先生が・・・幸せになりたくなったら、
私に・・・私だけに、言ってくれませんか?」
「・・・? 鳳先生?」
「はは・・・。いや、何でもないよ。
ただ、貴方を幸せに出来るひとが羨ましくてね」
意味を飲み込めずにいるままで、
ホームルームの予鈴が鳴った。
急ぎ足で教室に向かいながら、
鳳先生についてずっと考えていた。
『貴方の思う幸せとは、何ですか?』
それは、大切な人といられる暮らし。
鳳先生の答は私の答と重なって、
身体の隅々まで、イメージは染み渡った。
それはとても心地よくて。
ああ、頑張ろう、と思った。
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