罪人ライセンス

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「俺は最低だ〜〜〜っ!!」

草薙一はバカサイユの窓を開けて絶叫した。

翼は優雅に永田の入れた茶を飲み、
他の面々もそれぞれやりたいようにしている、
いつもの光景だ。

「どったの、はじめ?」

悟郎はそっと、近くにいる瞬に小声で問いかけた。

「最近ずっとああなんだ・・・、
放っておけ」

返す瞬の声もボリュームが小さい。

「ずっと!? どうしたんだろ〜ねぇ」

「恋の・・・病・・・」

寝ているのか起きているのか分からないまま
核心を突く瑞希。

「ナギの野朗ォ〜、何か楽しそうだぜ」

面白くもなさそうに吐き捨てたのは清春だった。

「・・・おりゃあっ!」

どこからかすちゃ、っと取り出した
水鉄砲(鉄砲と言うよりはバズーカに近い代物)を
一に向けて撃った。
いつもなら避けられる間合いなのだが、
一は避けもしないでぼんやり突っ立っていた。


「おい! 俺にも余波がかかったろうが!」

「・・・ちっ、本格的に腑抜けてやがる」

「・・・・・・清春」

長めの髪がべたりと張り付いた、
びしょ濡れの服の一は、ほとんど死にそうだった。



「俺に、もう一発撃ってくれ!」



『はぁ!?』

翼と瑞希を除くB6メンバーの声がハモる。



「俺は・・・俺は、最低なんだ・・・」


「ヤダよ、嫌がんねぇのに撃ってもツマンネー」

「俺は頭を冷やしたい・・・」

濡れた髪をがしがしと掻き分ける。
永田がそっとタオルを差し出した。

「何を悩んでいるんだ、一は・・・」

「ねえねえ、翼は知ってるの?」

「・・・さあな」

「え〜〜〜っ! 教えてよ、翼。
はじめが調子狂ってると、
ゴロちゃんも何だかおかしくなるもん!」

猫でも捨てちゃったのかな? と首を傾げる悟郎に、

「そもそも一は猫を飼っていない。
あのマンションはペット禁止だ。
でなけりゃとうに猫屋敷として報道されてるだろ」

余波のために濡れた服を拭いながら、
不機嫌そうに瞬が答える。



「気にするな。 ・・・直に治まるだろう」


「・・・早くその日が来ると良いね」

















草薙の謹慎処分が解けて、翌日。
補習を再開しようにも、
南の方の予定が立て込んでしまい、
なかなか機会が来なかった。
鳳や他の教師が代理として補習指導を申し出たので、
進行自体には問題なかったのだが。


久しぶりに会ったとき、
一は南を妙に意識するようになってしまったのだった。


『一君、ごめんなさいね。
私の方が、なかなか時間が空かなくて』


聞きなれたはずの声が。
まるで違って聞こえる。

何もしていないのに、
スポーツをした後みたいに、
心臓が跳ねる。




『女教師って響きが・・・ヤラシいよなァ・・・』




殴り倒した下種のことばが、
頭の奥にこびりついて離れない。



『・・・一君? どうかした?
具合、悪いの?』


『先生・・・ちょっと、離れて・・・』


額の熱を測ろうと、
差し伸べられた手を振り払った。


『具合・・・具合、悪いんだ。
だから・・・ごめん、
今日はちょっと・・・』

『ええ、分かったわ。
一人で帰れそう?』


自分を案じているのだと分かる声が。
柔らかそうな髪や、
華奢な骨格が。
優しい香りが。

じわじわと、追い詰められていくような気がして。





その日一は、慌てて逃げ帰ったのだった。







「俺ってヤツは・・・なんて罪深いんだ・・・」

バカサイユにて、ぶつぶつと呟きながら、
普段なら絶対に手に取らないような単語集を
必死で読むその姿は、なかなかに哀れだった。


「なんか、いっぱいいっぱいみたい・・・」

「・・・放っておいてやれ」

「うん・・・」

「永田、どんじゃらの相手をしろ!」

「随分懐かしいな、それ」

「瞬もPLAYするか?
ルールが高度で面白いぞ」

「あ、はいは〜い! ゴロちゃんもやる〜〜っ!」


長閑な会話をよそに、
一人草薙は苦しむのだった。










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