贈賄ミッション

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「セ・ン・セww」


「あら、悟郎君。凄く機嫌が良いのね」

「へっへ〜、わっかる〜?」

いつにもましてにこにこしている。

「先生、ちょっと目を瞑って?」

言われた通り素直に目を瞑ると、
口の中に飴玉を押し込まれた。

「甘い・・・」

懐かしい、いちごみるくの味。

「あげるよ。 頑張ってる先生に、
ゴロちゃんからご褒美だよ。
最近、ボク補習が楽しみなんだよね。
だって、先生を独り占めできるからさ。
ゴロちゃん、ポペラ嬉しいな、って」

・・・何と言うか、非常に可愛かった。
思わず、頭を撫でたくなるような
破壊力のある可愛らしさだ・・・。

(高校生男子なのよね・・・
ぜんっぜん、見えないだけで!
落ち着け、・・・私)

「あはは、ありがと。
よし、それじゃ、今日も頑張ろうね」

軽く咳払いをして、気を取り直す。
その日はとても捗った。
甘ったるいキャンディひとつで、
宥められてしまう自分は、
単純なのだろうか。








※※





後日、バカサイユで。
一君に叱られてしまった。

「先生は、もうちょっとゴロウに警戒心を持てよ」

「え・・・どうして」

「どうしてじゃないだろ!
あいつは可愛く見えるけど!
俺たちと同じ性別で同じ年齢なんだぜ」

「それはまあ・・・そうよね」

「今更だけど、あれだけべたべたされても
全く動じないってのはどうかと思うんだよな、俺は」

確かに・・・言われてみるとそうだ。
背後から抱きつかれたりしても、
本気で警戒したり、怒ったりはしなかった。

「他のB6メンバーが同じことをしたらど〜よ?」

というと、後ろから抱きつかれたり、
目を瞑って飴玉を押し込まれたり、などだろうか。

「う〜ん・・・。
まず、清春君が同じことをしたら、
全力で警戒するかな」

「・・・意味が違うって!
全く、しょうがねぇな」

一君は、仕方なさそうに言って、

「ちょっとの間、我慢な」

私を抱きしめた。


「って・・・!!
こら、何するの」


「放さない。 
ゴロウと同じこと、してみたぜ」

「・・・っち、違う・・・わよ」

絶対に違うと思う。
力は、込められていなかったけれど、
頭二つ分くらい違う身長の差や、
威圧されるような感じがまるで違う。


(ああ・・・そっか。
悟郎君は、甘い香りがする)




「ちょっと・・・!!!
一、止めてよ。 
先生になにしてるの!」

ぼうっとしていたところに、
悟郎くんの声がした。
引き剥がされる。
一君は苦笑した。

「ちょっと、お前の真似しただけだよ」

「む〜〜〜・・・。
はじめの意地悪・・・」

「ああ、悪かったな」

一君は、悟郎君の頭をぽんぽん、と叩いた。

「先生、行くよ。 今日も、補習だよね」

手を引かれて、教室に連れて行かれる。
いったい、何だったんだろう・・・。

「悟郎君、大丈夫よ。
手を放してくれても。
私を探していたの?」

教室へと向かう廊下で。
ゴロウ君は振り返った。

「ん・・・うん、
補習しよ、センセ」

何だか元気が無い。

「・・・悟郎君、ちょっと目を瞑って」

悟郎君は訝しげにするものの、
言われた通りに目を瞑る。
流石に口に押し込むのは躊躇われたので、
手にそっと忍ばせた。

「何これ」

「頑張っている君に、ご褒美」

とは言っても、たいしたものではない。

「あ・・・これ」

古き良きドロップスだ。

「懐かしくて、つい買っちゃった。
コンビニで、復刻版があったのね」

子どもの頃は、宝石のようで好きだった。

「・・・ありがとね。 センセ」

「どういたしまして」

一君の言い分はもっともだ。
でも・・・。
もう少し、この子が元気でいられるようになるまでは、
と思うのは、贅沢だろうか。
































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