心酔クオリティ

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草薙一がケンカ相手を叩きのめしたというニュースが、
学校側に伝わったときは、誰もが驚いたのだった。

「最近は、ケンカなんてしなかったのに・・・」

中でも、担任である南のショックは大きかった。
不当に絡み草薙を挑発した相手側に非があるとのことで、
丸一日の謹慎処分で済んだのだが。

「しかも理由を教えてくれないんですよ。
たいていのことは話してくれるようになったのに・・・、
私に対する信用が揺らぐようなことがあったのでしょうか」

草薙とつながりの深い鳳が相談に乗り、
南に代わって草薙の言い分を聞く事態になったのだった。

「生徒の全てが分かるだなんて、幻想だよ。
あまり一人で抱え込まないようにね、南先生」

「そうですね・・・ありがとうございます。
よろしくお願いします、・・・鳳先生」











「という訳で、私が君の話を聞くよ」

Class x の教室よりも、
草薙がリラックスして話せるのではないかという配慮で、
場所はバカサイユ宮殿だった。
真壁に許可を得て、人払いを済ませている。

ソファに座り、決まり悪そうにしている草薙には、
やはり昔の危うい影はなかった。

「・・・ホントに、たいしたことじゃないんだって」

草薙はほぼ無傷だった。
相手はもとケンカ仲間で、
怪我の程度は自己申告だが、
実際よりも相当上乗せしたようだ。

「つい、カッとなっちまった。
・・・悪かったとは思ってる。
アンタらに迷惑かけるつもりはなかったんだ」

「そういうことじゃなくて、
暴力自体が良くない。
大体、君はもうそうしたことの一切から
遠ざかっていただろう。
・・・南先生が酷く落ち込んでいるよ」

南先生、の単語に反応して、
草薙が反応を示す。
ぴくり、と身体が強張った。

「・・・彼女に関係があるのかい?」

「・・・あ〜〜〜、うん・・・」

「南先生には言わないから、
話してごらん」










草薙は次のように語った。

自分はケンカが強く、近隣に名を知られていたため、
腕を洗ったのにも関わらず、
ケンカをふっかけられることがよくあった。
(足を洗う、だよとすかさず鳳が訂正したのだが)
適当にあしらったり、かわしたりしたのだが、
その相手は南を侮辱したらしいのだ。


『そういやさ、お前のセンセ、
なかなか可愛い顔してるよな』

『カラダも見た目悪くないし、
女教師って響きがヤラシくて良いじゃん』

『しょっちゅうお前を探してんだよね〜、
俺、今度見かけたら何すっか分かんないなァ・・・』


挑発だと知りながら、受け流せず。
草薙の一撃によって、相手は気絶した。


「手加減はしたんだぜ?」

「・・・つまり、南先生のために
暴力を振るったのかい?」

「先生のためっていうか・・・、
俺が我慢できなかっただけだよ」

ことばだけでも。
あのひとを汚したのが、許せなかった。

「それで、南先生に何も言わなかったのか。
本当、・・・馬鹿みたいにまっすぐだね、君は」

「な、先生には言わないでくれよな。
何とか、誤魔化してくれ」

「・・・反省してるならね」

「う〜ん・・・俺、同じようなことがあったら、
また相手をノしちまう気がする」

「全然反省してないじゃないか」

「だってさ、あのひとをそんなふうに言うヤツを、
どうやったら許せるんだ?
俺には分かんねぇよ」



顔とか、カラダとか。
俺を探しに来た先生を、
犯すって、ほのめかした。
どうしたら、許せるのか分からない。

「もしも俺のとばっちりで先生がそんな目に遭ったら、
って思ったらたまんなくなったんだ」


草薙は、真剣だった。


「・・・私は、君の気持ちが分かると思うよ。
でも、次は他に方法を考えるんだね。
暴力以外の方法を探すんだ」




鳳は、その直情ぶりに呆れながら、
どうしたら人間をここまで心酔させることが
出来るのだろうと考えた。

















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