強敵スウィートハート

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「き、今日もデートに・・・誘えませんでした・・・」

流石に、底の底まで落ち込む。
いつだって、誘いたいと思っているのに。
見事にタイミングを外してしまう。

「いちいち私を呼び出して泣きつくのは
止めてもらえませんか、真田先生」

「・・・だって、だって先輩!
何だってこんなに上手くいかないんですか・・・」

清潔なハンカチを手渡される。
二階堂先輩は、取っ付きにくそうに
見えても面倒見が良い。
学生時代から気心が知れているとあって、
ついグチをこぼしてしまうのだ。

「・・・いい年をした男が、
涙目にならないでくださいよ」

「・・・まだ、泣いてません」

「仕様がないな、全く」

二階堂先輩なら、上手く誘えるのだろうか。
デートでも、スマートにエスコートして。
鳳先生や、衣笠先生も、
俺のように一喜一憂したりしないで、
サラッと、さりげなく、
デートに誘うんだろうなあ。
銀児先生も、困ったところもあるけれど、
良い先生だし・・・
九影先生も渋くて格好良いし!

「うあ〜〜〜。
もう浮上できそうにないんですけど」

「一人で考えて一人で落ち込まないように」

「・・・南先生、好きなひととか
いたりするんでしょうか・・・」

考えたくないのに、
勝手に考えてしまう。

ささいなことで喜んで、
ささいなことが気になって、苦しくて。

―― 俺は、恋愛なんて嫌いだ・・・。

「真田先生。 これをあげます」

「何ですか? これ」

「・・・映画のチケットです。
知人にもらいましたが、
その日私は都合が悪いので。
二名まで有効ですから、
誘ってみては?」

「・・・せ、先輩」

「諦めが悪くて底抜けに明るいのが、
君の取り得でしょう?
・・・さ、再挑戦しなさい」

「あ・・・ありがとうございます・・・!」

ため息を吐く先輩は、やっぱり、
格好良いな、と思った。













翌朝、勇気を出して、
頭の中で必死でシュミレーションを重ねた。

よし・・・! バッチリだ、行ける!

チケットを見つめながらぶつぶつと呟いていると、
背後に気配がした。



「あら、それ・・・試写会のチケットですね」

「うわあっ・・・!」

後ろから、ひょいと覗き込まれる。

「すみません、いきなり声をかけてしまって。
驚かせました?」

「いやそのあの・・・っ、
全然平気です」

「真田先生?」

「あ、はいっ・・・!」

「その映画、封切を楽しみにしていたんですよ。
何方かと出かけられるんですか?」

「はい・・・その、そうです!
それで・・・俺と・・・っ、
俺は、先生と行きたいんです!」

「先生。 どの先生ですか?」

「・・・南先生、
貴方と、行きたいです・・・っ!」

やっと、言えた。
頭が真っ白だ。

「私と・・・で、良いんですか。
それは嬉しいです。
いつですか?」

「あ、再来週の、土曜日の午後です」

彼女が手帳で予定を確認する間。
本当にドキドキした。

「・・・良かった。
大丈夫、あいています。
ぜひお付き合いさせてください」

「・・・はい!」

たかだか、映画の約束を取り付けただけで、
天国に昇る心地がする自分は、
きっととても単純なのだろう。

恋愛なんて嫌いだけど、
先生の何気ない一言が、
簡単に俺を浮上させてくれるから。

「楽しみにしてますね、真田先生」

「俺も、すっごく楽しみにしてます・・・!」

誰かを好きになるのも、
悪くないと思ってしまえるのだ。










「ああ・・・良かった、
やっと職員室に入れそうだね」

「朝から良いものを見ました・・・和みます」

「これでしばらくは元気でいてくれそうだ。
・・・つくづく世話が焼ける・・・」

「・・・けっ、真田には甘いんだからな・・・
ひ〜きだ、ひいき・・・!」

「日ごろの行いの差だろう、阿呆。
邪魔をするなよ」

ドアの前で、一部始終を見守られていたと気がつくまで、
俺は幸せの絶頂にあったのだった。











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