オトコノコにも、オンナノコにもなりたくなんかない。
自分を守るための、装い。
戦いのための。
でも、袋小路だ。
ボクはどこにも行けない。
「一の意地悪・・・」
「拗ねるなよ、ゴロウ。
お前だってしょっちゅうやってるんだからさ」
「ゴロちゃんは、良いの!」
「何で?」
「センセ、嫌がってないし・・・
何より、怖がってないもん!」
一が、先生を抱きしめているのを見たときは、
本当にどうしようかと思った。
先生は、一目で分かるほどに緊張していた。
・・・心臓が、痛かった。
「お前なぁ・・・、」
一は時々鋭くて、嫌になる。
「だって、仕方ないじゃないか。
男っぽくなくて、意識してもらえないなら、
それを利用するしかないだろ」
複雑なオトコゴコロだ。
先生に、触れるときは、
いつでも緊張する。
怖くてドキドキする。
悟られてはいけない。
精一杯、無邪気さを演じて。
ボクは先生を特別に好きだけれど、
先生はそうではないのだ。
「ま、俺たちの気持ちが分かったろ?」
頭を、ぽんぽんと叩かれる。
「・・・髪型崩れるから、止めてよね。
一の意地悪・・・」
ボクは意気地なしだ。
「身長、伸びないかなぁ」
身長が伸びて、長い髪を切って、
男物の服を着たら、
意識してもらえるようになるだろうか。
そうしたら、傍にいられなくなるかもしれない。
今までみたいに。
「まだ伸びるんじゃないか?」
「一とか、瑞希くらいが良い・・・」
「それは・・・まあ、頑張れ」
「むっか〜〜〜!良いよね、他人事なんだから」
「そうでもないぜ?」
「・・・どゆこと?」
「俺も、お前と同じだって言ったら。
・・・どうするんだ?」
一が。
先生を、好き・・・?
ドク、ドクと動く心臓の音。
「ホントなの?」
「さあな」
笑ってはぐらかす一は、
もしかするとボクの思うよりもはるかに、
大人なのかもしれなかった。
「・・・すっごい、意地悪だよ」
例えば、牛乳を毎日1リットル飲めば。
身長が伸びるかもしれない。
振り向いてくれるなら、ボクは迷わずそうする。
でも、何をしたら振り向いてくれるのか、
ボクにはよく分からない。
先生のくれたドロップスは、硝子の瓶に入れた。
いつでも眺められるように。
きらきらと光るそれは、とても綺麗だった。
先生のくれるものは、何だって大切にしたかった。
いつか、境界線を踏み越えて、
貴方のためだけに走る日を夢見てる。
どうかどうかその日まで、
その瞳に他の男を映さないで。
色とりどりのドロップスに願いをかけて。
ボクは先生を想って絵筆を取った。
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