ききみみタクティクス

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人の噂は、七十五日と言う。


「・・・本当に七十五日でおさまるのかしら」

私は、連日のように押し寄せる取材の嵐に
ウンザリしていたのだ。

現在、私の恋人である真壁翼は、
海外を拠点として活動しているものの、
日本を代表するトップクラスのモデルなのだ。
しかも、父親の経営する企業のスケールの巨大さも、
名声に拍車をかけた。
当然、私生活も取りざたされ・・・。

私の存在も、明らかになってしまった。

元・教師と生徒というだけで、
どこかスキャンダラスなのだ。
在学中は、いたって問題となるような付き合い方は
していなかったと言っても、信用されない。
仕事にならない状態が続く中、
年度の節目もあって、
私は長期研修を申し込んだのだった。

「・・・永田さんの報道管制は、今まで完璧だったのに」

同居中のマンションも、実家も居心地が悪く、
私は今永田さんの手配したホテルに泊まっている。

「申し訳ありません。
一時的な加熱がおさまるまでの辛抱ですから」

「いえ、・・・怒っている訳ではないし、
いつもお手数をかけて申し訳ないです。
それより、貴方なしで翼君は大丈夫なのかしら?」

「お父上が手配した有能なスタッフがいますから」

「どんな有能なスタッフでも、
貴方の代わりにはなれません」

私は、カリカリしている。
翼君が心配だった。

「・・・ご自身よりも、翼様は貴方を
心配なさったのでしょう」

「・・・うまく、やり過ごせると良いけれど」

「大丈夫ですよ。
今回の騒動は、翼様の意向に沿うものです」

「・・・つまり、わざとやったってこと?」

「おそらく」

「何故です?」

理由が分からない。

「・・・ 私が話したことは秘密にしていただけますか?
おそらく、後継者として祭り上げようとする一派や、
逆に排除しようとする一派の思惑が絡み合う中で、
翼様の結婚話が持ち上がろうとしていたためではないでしょうか」

「・・・聞いてませんよ、なにひとつ」

「派手な騒ぎにして、貴方との関係を表沙汰に
したかったのでしょう」

まるで、別世界の話だ。

「・・・何で言わないの」

「お母様も・・・そういった利権争いに
巻き込まれてしまいましたから。
翼様は翼様なりに、
貴方を守りたかったんだと思います」

「永田さんは、お見通しですね」

「私にも黙っていましたが、
長い付き合いなので」

何をしているのだろう。
安全なところに私をかくまって、
私の気持ちはどうなるというのだ。
私だって・・・、君を守りたいのに。

「・・・早く、会いたいのに」

戦術に戦略。
敵味方入り乱れる中で。
君は今、一人で戦っている。

「困ったひと・・・」

「それは、翼様のお母様の口癖でしたよ」

永田さんは苦笑する。

「・・・いつか、家族で団欒できる日が
来ると良いと思っています」

「・・・その日は、私も同席させてください」


降りしきる外の雨に目を凝らして、
私はじっと、恋人を待った。






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