不可侵ワールド

TOP






誰も容れられない筈の僕に、貴方は易々と食い込み、
かたくなな僕の世界を壊して支配した。



「瑞希君、意外なお客様よ」



恩師と同棲生活する未来は、
いくら僕でも予想していなかった。
相変わらず教師を続けている悠里と、
大学に通いながらモデルのバイトを続けている僕。
同居を押し通したのは僕だ。
傍にいないと、落ち着かない。

「よ、瑞希」

「やっほ〜! ふたりとも、おっひさ〜」

一と悟郎が、相変わらずの様子でそこにいた。

「ホンットに一緒に住んじゃってるんだもん。
ビックリしちゃったよ。
意外と大胆だよね〜、センセ」

以前よりも、少しだけ落ち着いたとはいえ、
フリルとリボンで飾り立てられた悟郎も。

「悪いな、突然来ちゃって。
つい、懐かしくて」

乱暴なようで意外とひとなつこい一も、
なんだか酷く懐かしい。

「お? お前も懐かしいって?
そうだよな〜、ちょっとしか経ってないのに、
何かヘンな感じだよな!」

「不思議だわ・・・。
どうして分かるのかしら」

二人をリビングの椅子に座らせた後で、
悠里は腰に手を当てて首を傾げる。

「なんとなく分かるもんなんだって、な?」

「私なんて一緒に暮らしてるのに
未だに瑞希君はミステリアスよ」

季節柄冷やしてあるアイスティーは、
悠里の好きな銘柄だった。
紅茶の缶を集めるのが好きだ、と知って
僕が買ったものだった。
何をしたら喜ぶのか、いつも考えてしまう。
悠里の嬉しそうな笑顔を見たとき、
僕は生まれ持った能力に初めて感謝した。
そう言うと、悠里は困った顔をして、
気に入らなくたって、
君が選んでくれるものなら嬉しいのに、と言った。

僕は貴方を喜ばせたいのに、
その方法を間違えてしまいそうで怖くなる。
僕が僕を最大限に利用すれば、
大抵のものを貴方に捧げられるのに、
貴方はそれを喜ばない。


お茶と菓子を出して、人心地ついたとき、
悟郎が尋ねた。


「ふたりっきりのときってさ、
どんな風に過ごしてるの?」

「・・・訊くなって・・・、
バカップルの生態なんて俺は知りたくないぜ」

「ち、ちょっと待ちなさい一君、
一体どんな想像をしているのよ」

「いやあ〜〜あながち想像って訳でもないんじゃ」

意味ありげな一の口調に、

「・・・・・・、みずきくん・・・
まさか・・・何も言ってないわよね?」

ギギギ、と恐る恐る悠里が僕を振り返る。

「あっはっは・・・、
冗談だよ、センセ。
楽しそうで良かったぜ」

「一君・・・元・とはいえ、
担任をからかうもんじゃないわよ?」

「二人がいちゃいちゃしてるとこなんて、
ボクには想像つかないにゃ〜」

「いいの、そんな想像はしなくて!」

あからさまに動揺する悠里は、
とても可愛い。
・・・でも。




「・・・二人とも。あまり、僕の悠里に
ちょっかい、出さないで・・・」





僕のことばに、二人は顔を見合わせる。

「うわ〜〜〜! 火傷しそうだよ、ボク」

「俺たち、すっごいお邪魔っぽいな・・・」

「・・・もう、瑞希君まで・・・、
全く、君達は〜〜〜〜っ!!」

耳まで赤くして照れる悠里に、
二人は楽しそうに笑った。




騒がしくて、楽しい。
他人が容れられなかった頃と違って、
世界が輝いて見える。
貴方がいるだけで、世界の姿が変わる。
それは本当に感動的で、
僕はいつまでも驚きを隠せない。


「いやはや、まるで新婚さんだねぇ。
ラヴラヴなんだねぇ。 良いな〜・・・
ホントに式挙げるときには、
ゴロちゃんがぜぇ〜ったい、歌ったげるから」

「俺は何するかな、今から
芸を仕込んでおかないと」

「・・・っていうか、
キヨとか翼とか絶対凄いことやらかしそう・・・
ポペラ楽しみ〜〜〜!!」


「もう・・・からかわないでよ・・・」


結婚の可能性を否定しない悠里を、
今すぐに抱きしめたいと思うけれど。
二人きりの世界になるまで我慢しよう。














TOP


Copyright(c) 2007 all rights reserved.