失恋イエスタデイ

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「先生・・・私、失恋したの・・・」

私のクラスの女の子が、
私の許へ来るなり泣き出した。

「ずっと・・・好きだったのに」

泣きじゃくる女の子を慰める。
親友とその好きな人が上手く行ってしまったので、
友達には相談できなかったのだそうだ。

幸い次の授業はなく、私は
今は物置と化したかつてのバカサイユへと
彼女を導いた。

「先生・・・ここ、なに」

私が掃除をしているから、
比較的清潔に保たれている。
壊すのが忍びなかった私は、
校長に無理を言ってここを残したのだ。

「・・・ここはね。 バカサイユ宮殿」

主たちは、とうの昔に姿を消した。
勝手なものだ。

「なにそれ、あはは・・・」

「友達思いの、男の子がいてね。
その子が立てた、自分と仲間のためのお城」

「・・・先生、それ。 ホントの話?」

「嘘みたいでしょ?
でも本当なの」

三色のジュースが口から溢れていたマーライオン。
エキセントリックな調度の数々の大半は撤去された。

「私は・・・その男の子が好きだった」

「生徒なのに?」

「そうよ、内緒にしてね?」

素直に頷く少女は、まだ若い。

「とてもとても好きだったけど・・・、
言えなかったの。
あの頃はいろいろ考えてたつもりだったけどね」

「・・・後悔してる?」

「してるし、してない」

「分かんないよ・・・」

「・・・一年間しか、一緒にいられなかったのに、
今でも、特別に思っているの。
時々、思い出してしまう。
あんなに楽しかった一年間はなかったわ」

「今も、一緒にいられたら良いのに、
って思わないの・・・?
私は、考えちゃうよ。 
きっとずっと・・・」

苦しい思いをする。

「ずっと、考えたって良いじゃない」

忘れられなくて、
引きずって、
傷ついたままでいるのも。

「それだって、貴方らしさかもしれない。
私は、そういうの嫌いじゃないわ」

涙で、くしゃくしゃになった顔。
自販機で買った、冷たいジュースを押し当てる。

「先生・・・冷たい」

「目を冷やした後で、飲みなさい。
・・・ね、大丈夫よ。
本気でした恋なら、
それは貴方を成長させてくれるから」

「先生みたいなこと言わないでよ・・・」

「ふふ・・・先生だからね。
仕方ないわ」


うっすらと、埃の積もった窓枠に手をかけた。
換気をする。
ずっと、たくさんの生徒を見送ってきた。

「・・・本当に、大好きだったんだよ」

「・・・うん」

「先生は、時々、そのひとに会ったりするの・・・?」

「・・・そうね。 時々」

「私も、これから先穏やかな気持ちで、
あのひとに会える日が来るのかな・・・」

そうなったらいいな、と独り言のように言う彼女や、
私を通り過ぎていったたくさんの生徒たちの幸福を、
私は此処で祈り続ける。

「ありがとね、・・・先生」

その一言が聞けるなら、
その笑顔が見られるなら、
それで満足だと思ってしまえるのだ。












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