ごますりファルス

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「瞬君。 よく頑張ったじゃない!」

毎月行われるテストで、彼は満点を取ったのだった。

「そんなに、賭けに勝ちたかったの?」

私と瞬君は、ちょっとした賭けをしていた。
満点を取れたら、瞬君の勝ち。
一問でも間違えたら、私の勝ち。
随分私に有利な条件なので、
気が引けたのだが、
瞬君はそれでいいと言った。

『満点なんて・・・私でも難しいわよ?』

『良い。 俺・・・無茶言うから』

今は十一月。
少なくともチャンスは残り数回。
無理なのではないかと思っていたのだが、
瞬君は見事にやってのけたのだった。

「さあて、私に出来ることなら、
ひとつだけ叶えて上げるわ。
私に出来ることなら・・・よ、良い?」

全自動洗濯機を買ってくれ、とか、
そういう類の無茶だと思っていた。

「・・・十一月の第三木曜日、
放課後の補習の後に、
俺に付き合って欲しいんだ」

何だか回りくどい言い方だ。
手帳で日程を確認する。

「第三木曜日って・・・十一月二十二日よね?
瞬君、バイトは?
それに、バンドの練習は?」

「俺の予定は空けてある。
だから、先生に予定を空けて欲しいんだ」

「・・・分かった。 それで良いのね?」


幸い来月末だ。今ならまだ予定の調整も可能だった。

それにしても、どこが無茶なのだろう?

「ああ、約束だぞ。 先生」




そして、11月22日木曜日。
私と瞬君は、シルバーアクセの専門店にいた。

「うわあ、楽しい!
いろいろあるのね〜」

「子どもみたいにはしゃぐなよ・・・先生。
ミットもないぞ」

「野球してるんじゃないのよ、
みっともない、でしょ」

「・・・じゃあ、みっとって何なんだ?」

「え!? そ・・・それは・・・」

下らない会話をしながら、
綺麗に展示された商品を見ていく。
値段はピンキリだったが、総じて高い。
おそらく、本物の銀なのだろう。

「これを、俺に選んで欲しいんだ」

「もしかして・・・私に買え、と?」

多少ならこっそりおごってあげようとは
思っていたが、ちょっと高すぎる。

「違う!・・・選ぶだけで良いんだ」

「私が? 選ぶの?」

もしかすると、誰かに贈るのだろうか。

「女の子にあげるの?」

それで、私に付き合わせたのなら、頷ける。
瞬君は翼君のように突き抜けた悪趣味ではない。
だが、基本的に女の子への興味が薄いのだ。
B6はほぼ全員そんな感じで、
人気があるのに勿体ないような気もする。

「・・・相手は男だ」

・・・まさか、B6のメンバーだろうか・・・?

「う〜ん、じゃ、これが良い」

それは、シンプルなデザインの、ドッグタグだった。


「ああ、でもこれじゃ・・・
瞬君のイメージになっちゃうね」


しかも、見た目に反して高い・・・。


「それが良いなら、それにする」

「ええっ・・・! 無駄遣いが大嫌いな瞬君が・・・」

「俺だって、たまには好きに金を遣いたい」

瞬君は、店員に頼んで、
ショーウィンドウから出してもらうと、
即決でそれを買った。

「・・・ラッピングは、してもらわないの?」

「いや、・・・今ここでつける。
俺へのプレゼントだからな」

「・・・ちょっと待って?」

「今日は、俺の誕生日なんだ」

「何で、さっさと言わないのよ!!!」

「・・・誕生日を祝ってくれ、
だなんて俺が言えるか!」

つまり、瞬君の言う無茶とは、
たかだか誕生日のお祝いだったのだ・・・。

「それを言ってくれたら、
何か私から贈ったのに」

「アンタは先生だろ。
そういうのは良くない」

「そりゃ、そうだけど・・・」

頑張っている瞬君に、
何かあげたいとは思っていたのに。

「・・・俺、誕生日が嫌いだったんだ。
周りのガキは楽しみにしてるのに・・・
俺の家にはそういう習慣がなかったからさ」

「・・・あ」

瞬君のお母さんが、家族のイベントを
大事にするタイプには見えなかった。

「それにしても、わざわざ賭けまで
持ち出さなくても・・・」

言ってくれたら、B6も巻き込んで
盛大にお祝いしたと思う。
プレゼントも、皆で買って・・・。

「俺は、・・・先生を、
独り占めしたかったんだ」

ぶっきらぼうに言う瞬君は、
少し照れくさそうだった。

「たいしたことはしてあげられなかったけど・・・」

アクセサリを、選んだだけ。
それで良いのだろうか。

瞬君は、買ったばかりのドッグタグを
愛しげに見た。





「良いんだよ、・・・大事にする。
ありがとな、先生」




もしも、時が巻き戻せるのなら、
私は何度でも、君の誕生日を祝福するのに。
瞬君が、心の底で・・・一番祝って欲しかったひとの
代わりには、なれないことが切ない。

せめて、と。
たくさんの気持ちを込めて言う。




「瞬君・・・お誕生日おめでとう。
貴方が生まれてきてくれて、良かった」










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