●● Not while I'm around オマケ ●●
「俺にはサッパリわかんねェな」
「どしたの? キヨ」
バカサイユにて、
毎度おなじみのメンバーは残り少ない昼休みを満喫していた。
と言っても、瑞希と瞬は幼稚園児よろしく
お昼寝をしていたし、
翼と一はダチョウを餌付けしていたので、
珍しく静かではあったのだ。
「あ? っつ〜か、
誰が見ても明らかなくらい俺にメロメロな癖に
今更無駄なあがきをする理由がわかんね」
「ああ、センセの話」
女の子のような、ハイトーンの声に、
気崩してはいるが可愛らしいファッション。
誰が見ても、女の子にしか見えないが、
実際は風門寺悟郎という立派な男子生徒だった。
「キヨってばさ、いっつも自信マンマンだよね、
あれだけ虐め倒しておいて、
ど〜して好かれてるって確信が持てる訳・・・?」
呆れた調子で言うのに、
清春はニヤリと笑ってみせた。
「俺が、俺の玩具をどう扱おうと
勝手じゃねぇのか?」
「ふふん・・・。
キヨ以外の誰かが虐めたら、
承知しない癖に・・・って、な〜にすんの!」
どこから取り出したのか、
小型の水鉄砲で清春は悟郎を撃った。
「あ〜〜、もう!
濡れちゃったじゃないか!」
「ナマイキ言ってるからだ、アホ」
「む〜〜〜!
そんなだと先生に見放されちゃうんだからね!」
「・・・それだけはねえだろ」
見放す?
そんなことができるはずがない。
―― あの、女に。
「どうかなぁ、最近避けられてるらしいじゃん。
・・・何か、酷いことしたんじゃないよね?」
心配そうな口ぶりだったのが、余計に気に食わない。
B6の連中は、なんだかんだであの女に懐いているのだ。
しかも。
実際、アレは近頃妙によそよそしい。
どうせ、立場だのしがらみだの責任だの世間体だのに
縛られているのだろう。
「酷いことって、どんなだよ?」
「・・・よく考えたら、キヨがたいていの
悪戯、してるもんね。
それでも、先生は一度も音をあげなかったんだっけ」
「一度くらい、泣かせてやりゃ〜良かったぜ。
近頃ホンッキでそう思うんだよなァ」
泣いているところを、見たいと。
いつも、思っていた。
泣く女は、嫌いだった。
媚びているようで。
鬱陶しいとさえ思っていた。
だから、泣かないところを気に入っていたのだ。
けれど・・・。
いつからか、泣き顔を見てやりたいと思っていた。
「・・・これからも、どうせ一緒にいるんだから、
良いじゃない。 チャンス、たくさんあるよ」
悟郎は濡れた服を躊躇い無く脱いで乾かした。
女モノの制服の下には、確かに男の体がある。
「・・・良いのか?
オマエの好きなセンセ〜を、
俺が泣かせても?」
「ボクが許可してもしなくても、おんなじでしょ。
それに、センセはなんだかんだ言っても、
キヨが大好きなんだもの・・・」
悟郎は知っている。
清春の撮った、おびただしい量のフィルム。
大半が、嫌がらせとしか言いようのないものだったが、
稀に、非常に良い写真が混じっていた。
おそらく、清春が何かしたのだろう。
振り向いて、驚きに目を見開いている。
その、一瞬後。
最高の笑顔で、先生は、そこにいた。
ファインダーを覗くのが、自分では駄目なのだ、と。
悟郎は悟ったのだった。
「・・・大切にしてよね。
でなきゃ、許さないから。
泣かすのも、すっごく、嫌なんだけど・・・」
写真をそっと抜き取った自分の気持ちを汲め、と
悟郎は清春をにらみつけた。
「・・・わぁ〜ってるっつの。
どうすっかなぁ〜・・・」
清春は、考えている。
他の何を捨てても、自分を選ばせてやるには、
どうしたら良いのか・・・。
「ちっ・・・アイツが、俺と同じところまで、
降りてこなきゃ、割りにあわねぇだろ・・・」
早く、降りてくれば良い。
自分の意志で。
そうしたら、二度と離してやらない。
随分と、気が長くなったものだと思い、苦笑した。
自分の変化を、悪くないと思っているのが、分かったからだ。
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