柚木先輩に、京紅を貰った。
使い方が分からず、調べてみると、
たいそう高価な品であることが分かった。
少量の水を含ませた筆で少しずつ溶くらしい。
勿論、日常的に使えるような品ではない。
「・・・日野。 気に入らなかったのか?」
「え?」
「一度も使わないだろう? 京紅」
デートのときくらい、とは確かに思う。
「恐れ多くて・・・使えないんです。
でも、ちゃんと大切にしていますから」
「馬鹿かお前。 消耗品を大切に取っておいても
何にもならないだろう。
今度持って来いよ、 俺が塗ってやるから」
「ますます恐れ多いですから!」
「・・・聞き分けのない子は嫌いだよ?
俺は上手いぜ。 心配するな」
「何が上手いんですか」
先輩は、私の唇を指でなぞる。
軽く押しつぶされて、
その些細な刺激だけで、
素直な反応を示す自分の体を疎む。
「丁寧に塗った後、
・・・キスで落としてやるのを
楽しみにしていたんだよな」
「下心の塊ですね」
「プレゼントとはそうしたものだよ、日野。
良いから大人しく持っておいで、ね?」
実は、今もバッグの中に入っているのだが・・・
「今度持って来ますね・・・」
・・・私は平穏のために沈黙したのだった。
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