Yes, my dear

モクジ
叔父さんはいつも、当たり前のように私を心配してくれる。
肉親の絆なんて、あまり当てに出来ないと思っていた私には、
正直とても嬉しかった。
誕生日には、白いウサギのぬいぐるみをくれた。
驚いてことばも無い私に、照れ隠しにぶっきらぼうになった叔父さんは、
こう言ってはなんだけれど、ちょっと可愛かった。
家族らしいイベントはまだ馴染まなくて、くすぐったいけれど、
ごっこのような真似事でかまわないんだ。今はまだ。
降り積もる雪のような優しい時間を重ねていけば、
いつかは家族になれる気がする。

「チェシャ猫、いる〜?」

「いるよ、僕らのアリス」

彼の特等席の椅子の上に、先日クッションを買った。
首だけでも、居心地が良くなれば良い、と思ったからだ。
変わらない気配が私を安心させる。
叔父さんは私の彼らをライナスの毛布だと言った。
彼らを手放したりなんか、絶対にしない。
私は決して裏切らない。

「今日ね、男の子に告白されたのよ、びっくりしちゃった」

「コクハク?」

「チェシャ猫には、分からないか」

転校先では、思っていたよりも簡単に受け入れられた。
昔から夢見がちで、母親にすら気味悪がられていた私の空想癖は
表向き隠しおおせているようだ。
歪み、変質した私だけの永遠の楽園の住人たちは、
今もアリスの帰りを待ち続けているのかもしれない。
時折懐かしく思い出すけれど、
退屈で平凡な日常へと逃げ込むのは容易かった。

「私が、誰かに好かれるなんて思ってもみなかったんだわ」

「僕たちは皆アリスが大好きだよ」

淡々とした低い声。

「あなたたちは別よ。生身の人間で、って意味ね」

お母さんですら、私を嫌っていたのに。
私は、クッションの上の猫の首を抱きしめる。
柔らかくて温かい。
私の友達はいつだって優しい。

「私がいつか、ひとりでも生きていかれるくらい強くなったら、
皆、いなくなっちゃうのかな」

「・・・僕らのアリス、君が望むなら」

「猫はどうか知らないけれど、人間は自分の望みなんて
分からないものなのよ」

私が《健康》になったら、と叔父さんは言う。
ライナスもいつかは毛布を手放さなくてはならないのだ、と。

「あなたたちがいなくなるなんて、私は嫌だもの。
きっと、ずっと一緒だわ」

それにね、と私は付け加える。

「万が一結婚するとしたら、低い声の男のひとにするのよ」

猫は答えず、笑うばかりだ。
私の秘密の《不思議の国》よ。
誰にも、立ち入らせはしない。
例え幸福を手に入れても、
そこは永遠に私の聖域であり続けるのだと思う。






モクジ