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夢路の果て
夢路の果て
※ 銀 × 望美
正規エンド後。
「貴方がここにいてくれることが、奇跡よ」
女は男に美しい微笑を投げかけながら、
男を通したはるか向こうを見ている、と男は思う。
世界から自分を切り離して連れ去ったその女は、
時を超越する禁忌を度々犯した罪により半ば狂っている。
親密な人間が死ぬ場面に幾度も遭遇した女。
救う術を知らないために愛した男を殺し続けたその女は、
哀しみと悲劇の淵に立ちつくし狂気にその身を委ねようとした。
愛した男の似姿を道連れに。
私は私の恋心の息の根を止めようと足掻いている。
心臓に根を張りめぐらせるそれは私のあらゆる感情を
養分として成長しいまやまったく私の手には負えない
−−−しかしそれを根こぎにしたなら私の心はきっと壊れてしまう。
それほどにかのひとはもはや私の一部だ。
ずっと奇跡を探している。
時空を超える、ということは、人に不向きの力だと私は思った。
同じことのやり直しや繰り返しを続けていると生の意味に
直面せざるを得ない。
生きていることは、
きっとそれ自体が奇跡だ。
危うい均衡の上に人はやっとのことで生きている。
眼前の男にそれについて話してみたいと思った。
「あなたはまるで私を死者を悼むように見ますね」
銀は面白そうに言った。
私は彼を連れ去った。
彼の世界から彼を切り離してすべてを捨てて私を選ばせた。
それなのに私は彼にとても酷い仕打ちをしている。
彼はまるで私が作り出したまぼろしのようだ。
叶わなかった願い、絶たれた望みで織りあげられた人形。
あのひとに似ている、あのひとかもしれない、
一縷の望みに賭けたが銀は私のあのひとじゃなかった。
私は精一杯足掻いたけれど結局何もかも徒労だった。
あのひとを救えなかった。
そうして救えないまま逃げた。
もう二度と失いたくなかった、
あのひとの死を見たくなかった、殺したくなかった
…同じことの繰り返しとやり直し。
けれど会いたくて、その一心で時を超えた。
何度目かの別離に頭の中で何かがふつりと切れた。
それ以来私は変わってしまった。
何もかもがどうでも良かった。
あらゆることが遠い。
戦場の惨状にもまるで動じなくなった。
死体が血の滴る生肉にしか見えなくなった頃に銀を見つけた。
知盛でないと知れてもその手を離さなかった。
離せなかった。
銀はまるで知盛と違っていて、何よりも生きていた。
私は
ぬくもりが欲しかった。
銀を選んだ。
銀を連れ帰るときに逆鱗を手放したけれど、
あのとき私の味わった気持ちを何と言えば良いんだろう。
もう二度とあのひとの死を見なくて済む安堵。
もう二度と会えない、完全な別離の痛み。喪失感。
私はあのひとを永久になくした。
それなら救えなかった彼らの供養のために残りの人生を生きたかった。
私は考える。
私の見放したたくさんの私たちはどこへ向かったのだろう。
心が壊れた銀や燃える京は今もどこかに在り続けていて、
それぞれの未来へと動き続けているのか。
もしも今ここにいる私たちがあまたある道の一つに過ぎないなら、
彼が生きる世界に自分は何故たどり着けなかったのか。
自分を常に案じている銀を愛していると思う。彼を失ったら私には何も残らない。
触れて熱を確かめたがる私に銀は苦笑する。
仕方ない、みたいに私の言いなりになってくれる。
銀は私に自分を死者を悼む目で見ると言うけれど、
銀だって私を何か痛ましい目で見るのだ。
「銀…私は今、少し病気で、もう治らないかもしれない」
銀に寄りかかって、甘えられるだけ甘えて、
自分の身勝手にあきれながら、
それでも恋人の身体の温かさに救われる。
「…ごめんなさい…銀」
近頃まるで自分を抑えられない。
涙を拭うようにそっと目に当てられる手を掴み指先を強く噛んだ。
にじむ血の鉄の味。
「…痛くない…? 」
「貴方が思うよりも私ははるかに身勝手ですよ。
だから謝らないで…
貴方が許す限り私が貴方の側にいます」
私をこの世につなぎとめる鎖がきしみ、
私は力の限り逃れようと暴れ狂いながら、
ようやくその存在を確かめる。
私の心の大半はきっとはるかな世界の海の底にあるけれど、
その他は全部あげるから、だから……。
「もう少しだけ待っていて」
告げると銀は銀らしい優しい笑みを見せた。
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