バイバイ
小さな頃からずっと・・・
お兄ちゃんさえいたら、何も怖くなかった・・・。
「お兄ちゃん、鷹士お兄ちゃん」
眠りから覚める度に安心する。
なじみ深い声の主はまだ俺の側にいてくれる、と分かる。
日に日に美しくなる妹の姿が眩しかった。
ダイエットに励む前もかわいかったと心底思い言い張る俺に、
妹は苦笑するばかりだ。
『お兄ちゃんはいつもそればかりだね』
マンションに住みだした男の子たちを意識してか、
妹は体型を気にしはじめた。
妹を甘やかして太らせた責任は俺にあるのに、一言も俺を責めない。
妹はきっと気が付いていない。
俺は多分、妹を誰にも渡したくなかったんだ。
ずっと俺一人だけのものでいて欲しかった。
俺の無意識な身勝手で妹が恋愛するチャンスを奪ってきた。
今妹は変わろうとしている。
俺を置き去りにして。
「ヒトミ、きれいになったな」
「そうかな?体重は大分落ちたけど。お兄ちゃんの熱血指導のおかげだよ」
「いや―」
そうじゃなくて、きっと恋をしているからだ。
その笑みを向ける特別な相手が出来たからだ。
寂しくて悲しい。自分以外の男が妹を幸せにし、
その心に格別な位置を占める日は近い。いつかは来ると分かっていた。予感を持ちながら、おびえていた。
神様、どうかどうか今日がその日でありませんように。
繰り返される祈りの意味が擦り切れても、俺は他の誰もいらない。
「お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなかったら、それでも太ってた私を可愛いって言ってくれる? 」
「当たり前だろ」
兄弟じゃなかったら、と思わない日はない。
そうしたら誰はばかることなく、さらって行けるのに。
「でも、私はお兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったな」
「恋人と違って、つながりは永遠だもの」
そうして俺の心を一瞬で浮上させ軽やかに笑う。
何も知らない君よ、いつまでも変わらないで、側にいて欲しかった。
END
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