The manner of love(恋愛の作法) 前編

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「・・・タンニン! どういうことだ」

昼休みの職員室。
英語の質問を受け付けていると、着信があった。
あまりにも忙しくて、確認する機会が無かったが、
履歴は8件目。 全て翼君からだった。
もしかすると、何かアクシデントかもしれない。
丁寧に謝って、人気の無い旧バカサイユに
場所を移動し、かけなおすと。
凄い剣幕で怒鳴られた。
耳が痛いが、只事ではないと判断する。

「何が? どうしたの、翼君。
落ち着いて、 まさか事故ではないわよね?」

「違う! 悠里、オミアイするとは
どういうことだ・・・!!」

「お見合い。 ああ、その話を誰から聞いたの?」

私は誰にも話していない。

「永田だ」

「・・・何者なの、永田さんは!?」

何故私のプライベートにそこまで精通しているのだ。

「永田は永田だ! それより、
事情をセツメイしてもらおうか・・・」

「今夜辺り、説明するつもりでいたのよ」


事情は単純だ。
世話好きの伯母のおせっかいを、
断りきれなかった母に泣く泣く頼まれた。
伯母は、悪い人ではないのだが、
自分の都合を優先させるところがある。
恋人がいるのだと言って断れば、
余計に詮索されるに違いない。
まして、翼君は《真壁》の息子で、
モデルとして露出も多い。

「俺がいるのに・・・、何故断らないんだ!」

事情を簡単に説明するものの、
苛立ちを滲ませた声に、
流石にすまなさが募った。

「私だって、お見合いなんてしたくないわ。
でも、礼儀の問題があるのよね。
伯母が釣書を勝手に交換してしまったらしくて・・・。
でも、君の心配するようなことは何も無いわ」

「Shit! manner の問題だと言うのか・・・」

「そう・・・失礼にならないように、
一度会って断るつもりでいたの」

面倒だが、社会はその種の面倒に溢れているものだ。

「ごめんなさいね。 ・・・君がいるのに」

「・・・いつ、どこで、ミアイをするのか言え」

「言えないわ」

「・・・! 言えないようなことをするのか」

一体どんなことだ。

「あのね、君はお見合いを誤解しているわ。
言ったら、絶対に邪魔をするでしょう?」

「当たり前だな。 全力で潰しにかかる」

「言えないでしょう、それは・・・」

相手の人には罪が無いのだ。
伯母も母も悪い人では無いし、
私を心配してくれているのだから。

「あら・・・もうお昼休みが
終わってしまうから、切りますね。
また今夜、連絡するわ」

翼君は、無言で切ってしまった。
どうやら、本当に気を悪くしているらしい。

「困ったわねぇ・・・もう」

私は、翼君が好きだと、
はっきり意思表示をしているのに。
翼君には、理解が出来ないのかもしれない。
友達の名誉のために、学校を派手に改造するくらい、
自分の気持ちにだけ、正直な翼君。
他人の思惑を気にする私は、
彼に比べて不純なのかもしれない。
でも、性格は変えられない。
私には、断れないことも分かっていた。

やっぱり、・・・ちゃんと、謝ろう。

心に決めた恋人が居るのに、
黙って見合いをしようとしている、私の身勝手が。
翼君の気を悪くしたのかもしれない。

私は溜息を吐いて、携帯を握り締めると、
職員室へと歩き出した。



to be continued













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