―― He is The teacher's pet.
「彼は先生のペットです・・・??」
「違います! 『彼は、先生のお気に入りだ』」
「petって、ペットじゃないのか?」
「その意味も勿論あるわ。
あまり良い意味で使われないけれど、
お気に入り、寵児。 といった意味も含むの。
君はもう少し辞書を引く癖を身につけなきゃ」
「・・・ああ、そうする」
本日の補習は私の担当教科であるグラマーだ。
「昔、古い映画で、I wanna be teacher's pet・・・
って歌うシーンがあったのよ。
私はその曲が好きで、それで覚えたわ」
「『私は、先生のお気に入りになりたい』か」
「そうそう。
洋画をくり返し観るのはオススメね。
好きこそものの上手なれ、って言うじゃない」
「・・・俺は、ペットになりたい」
瞬君はぽつりと呟いた。
「こら、ちょっと待ちなさい」
「愛されて養ってもらって、
ただ可愛がられていればいいなんて、
羨ましい身分だろ、ペットって」
悪戯っぽい視線に、からかわれているのだと分かった。
「・・・一度、なってみたいな」
「物騒なこと言わないの。
君が言うとシャレにならないわ・・・」
《飼い主》を志望する女性が列を成すだろう。
あるいは、男性もいるかもしれない。
「・・・俺が自力で稼げなくなったら、
先生、俺をペットにしてみないか?」
「I wanna be teacher's pet?
映画の話、フィクションだからね」
「約束してくれ、先生」
不意に、胸が締め付けられた。
瞬君は、愛情を注がれるだけの存在に、
憧れを抱いてしまうのではないか。
その原因に思い至ったからだ。
寂しそうな子だと思う。
いつか、たくさんの女の人を
狂わせるのではないだろうか。
「分かったわ・・・さあ、次に行くわよ」
正直に告白しよう。
私は、すっかり忘れていたのだ。
会話の細部など、人間長い間覚えていられるものではない。
卒業して、二年の歳月が流れたある日。
本当に瞬君は、私のマンションのドアを叩いた。
「先生、俺を先生のペットにしてくれないか?」
・・・私は眩暈がしたものだ。
to be continued
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