翼が、昔俺に訊いた。
「お前はあのひとをハハオヤにしたいのか、
それともコイビトにしたいのか?
お前を見ていると、そこが unacountable だ」
俺は答えられなかった。
ただ、傍にいたいとそればかり考えていたから。
ずっと傍にいたいと、それだけ。
母親の愛情が欲しかったのは昔の話だ。
朝、目が覚めると一人なのが嫌だった。
それだけのために、片端から女と寝た時期もある。
誰でも良かったから、誰とも長続きしなかった。
母親でも恋人でもない。
先生でもない。
関係の名前なんか知らない。
あのひとが、俺の傍にいてくれるなら
何だってかまわなかったと思う。
ストーカーから、ひっきりなしに届くメール。
俺の行動の仔細が事細かに書かれたそれは、
俺の気を滅入らせた。
気味が悪いから、というだけではなかった。
強い思いがあっても、正しく伝わるとは限らない。
心はいともたやすく変質してしまう、
それが俺には苦しかったのだ。
卒業してからもずっと、俺は先生のことを
忘れられなかった。
くり返し思い出しては、会いたいという衝動を
なだめすかすのに苦労した。
いつかその日が来るとは思っていたが、
ついに限界だった。
先生は、まるで変わっていなかった。
驚くほど昔のままだった。
―― いくら、元・生徒だからって・・・
普通は部屋にいれないだろ。
嫌になる程無防備だ。
信頼されているのだと分かる。
心配してくれているのだとも。
久方ぶりに心行くまで貪る眠りは心地よかった。
眠れないだけで、ひとは弱ってしまう。
哀しくなるほど脆い生きものなのかもしれない。
この部屋のいたるところに、先生を感じる。
よく整えられた掃除済みの部屋。
柔らかい、パステル調の色彩で統一されている。
居心地が良かった。
・・・先生の、ペットになりたい。
だって、先生なら。
拾ったものを捨てるなんて決して出来ないから。
きっと・・・死ぬまで大事にしてもらえるから。
夢は見なかった。
目が覚めると、既に時計の針は午後四時を指している。
俺は、それを確かめてもう一度目を瞑った。
目を覚ましたときに、先生にいて欲しいと思った。
to be continued
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